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DOGMAN ドッグマンのtakのレビュー・感想・評価

DOGMAN ドッグマン(2023年製作の映画)
3.8
リュック・ベッソン監督による新たなダークヒーロー(他の表現ないのかな)。好き嫌いは分かれるが、問答無用の荒唐無稽さが際立った「ルーシー」よりも、こちらの方が個人的には好み。

警察の検問で止められたトラック。運転席には傷を負った女装の男、荷台には数十匹の犬。警察署で精神科医の質問を受けながら、彼は生い立ちについて話し始める。

暴力的な父親に虐待されて犬小屋で育った少年。父親の銃撃で身体が不自由になったが、犬と意思疎通できるようになった彼を、飼い犬たちが手足となって支えてくれる。やがて彼は社会の裏側で活躍する"ドッグマン"となった。犬たちの活躍が面白い。撮影や編集、工夫したんだろうな。

虐げられた環境からダークヒーローとなっていく過程に、「ジョーカー」を重ねる方もいるかもしれない。申し訳ないけれど、徹底した悪に染まっていく様子を讃えるようなあんな映画(大嫌いなんです💢)と一括りにされては困る。「ドッグマン」の主人公は、富の再分配として犯罪に手を染めてはいくけれど、決して世の中を否定するようなヴィランではない。職を探して車椅子で店を訪ね、懸命に自分と犬の穏やかな生活を築こうとしているだけの地道な男だ。

主人公がかつて置かれた厳しい環境と生い立ちは、主人公の語りとともに回想形式で見せていく構成。主人公の過去を少しずつ紐解いていくことで、現在の彼を際立たせてくれる。対して、こんなに酷かったんです→悪に染まって当然よね?と、ヒネリのない時系列で観客に有無を言わせない「ジョーカー」の強引さとは雲泥の差。さすがベッソン。

ドラァグクィーンとしてキャバレーのステージに立つ場面は、音楽好きには楽しい。EurythmicsのSweet Dreamsが流れ始めて、口パクで昔の歌手を女装パフォーマンスするアーティストたちが現れる。アニー・レノックスはもちろん、コーンブラが印象的なマドンナのステージ衣装や、ど派手なシェールの衣装を着たおネエさんたちw。

そこで初舞台を踏む主人公が演じるのはエディット・ピアフ。口パクではあるけれど熱演。晩年のピアフは立つのもやっとだったのに、ステージで歌った。この場面の主人公の姿に重なる。これ、ピアフへのオマージュだよね、きっと。ピアフの曲はエンドクレジットでも流れる。クリストファー・ノーランが「インセプション」で使ったあの曲。ベッソンが俺も使いたかったんだぜ、と言ってる気がしてちょっと嬉しい。

マリリン・モンローのI Wanna Be Loved By You(愛されたいの)を歌いながら化粧する場面から、怒涛のクライマックスへ。十字架の下で犬に囲まれるラストシーン。宗教への傾倒を口にする父や兄から酷い目に遭い続けた主人公は、神さえ信じられなかったに違いない。でも最期に神にも愛されたかったという気持ち現れなのだろう。「ルーシー」には映画愛を感じるオマージュがあったが、本作では音楽の使い方にこだわりを感じる。
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