このレビューはネタバレを含みます
18世紀デンマーク。
庭師から大尉に昇りつめた退役軍人のルドヴィ・ケーレンは、ヒースという荒野の開拓に名乗りを上げる。
ヒースの開拓は国王の念願でもあったが、ルドヴィは何の援助もなしに独りで荒野に繰り出すことになる。
彼の目的は開拓を成功させ、貴族の称号を得ること。
しかし、ヒースの有力者であるシンケルは、自らの勢力が衰退することを恐れ、ルドヴィに難題をふっかける。
ヒースは自分の所有地であるため、収穫の一部を納めるようにと。
しかしルドヴィはヒースは王の所有地であると主張し、これを跳ね除ける。
やがて、シンケルは様々な手で彼の開拓を妨害するようになる。
とにかく目的に向かって一切の妥協を許さない鉄の心を持ったルドヴィ。
が、シンケルのもとを逃げ出した使用人のアン、家族に捨てられたタタール人の少女アンマイ、牧師のアントンと接するうちに、彼の頑なな心は少しずつ解れていく。
自然の脅威以上に人間の心の醜さに打ちのめされる、かなりハードな内容の映画だった。
特にルドヴィを邪魔するシンケルの邪悪で未熟な心に嫌悪感を抱かずにはいられない。
まだ権力を握る貴族が圧倒的な力を持ち、庶民たちが踏みつけにされていた時代。
ルドヴィは自分の信念を貫こうとするが、それに対して払うことになる犠牲は途轍もなく大きかった。
何か大きな目的に向かって突き進めば、必ず志を同じくする仲間は現れる。
そしてその目的を応援し、力になってくれる者も。
しかし、目的が大きければ大きいほど、そこに立ちはだかる障害も大きい。
そして大きな障害に阻まれた時、どのような選択肢を選ぶかはとても重要だ。
もし、ずっと自分に寄り添い、支え続けてきてくれた者を切り捨てなければならない状況になったとしたら。
後ろめたさを感じるような選択をしたなら、たとえ目的が達成したとしても幸福は得られないだろう。
後にルドヴィは貴族と使用人の間に生まれた私生児だったことが明かされる。
おそらく彼は相当な屈辱を浴びながら、これまで生きてきたのだろう。
だから、彼がどうしても貴族の称号を手に入れたかった気持ちは分かる。
が、彼は目の前に注がれた愛を振り払ってまで、自らの野望を成し遂げようとしてしまった。
その結果、彼は途方もないほどの喪失感を味わうことになる。
これは愛の代償を描く物語でもあると思った。
ルドヴィに想いを寄せるシンケルの従姉妹エレルの存在も印象的だった。
彼女は父親から有力貴族と結婚するよう命じられており、その相手がシンケルだった。
しかし、彼女はシンケルを愛していない。
彼女はルドヴィが貴族の称号を得るのを心待ちにしていた。
そして、ルドヴィもまた彼女と結ばれることを密かに願っていた。
身体はアンと繋がっていたのに。
エレルはシンケルからの求婚を断り続けるが、その代償として罪のない者が命を落とすことになる。
そしてルドヴィもまた己の野望のため愛を見失うことになる。
ルドヴィはどこで選択肢を誤ったのだろうと思ったが、物語が終盤に近づくにつれ、これは初めから彼が辿るべき運命だったのかもしれないと思った。
彼と身を寄り添うように生きてきたアンとアントンの存在はとても大きい。
心が重くなるような作品だったが、ラストシーンに少し心が救われる気がした。