たらお

52ヘルツのクジラたちのたらおのレビュー・感想・評価

52ヘルツのクジラたち(2024年製作の映画)
3.5
自分にとっての「魂の番(つがい)」を求めている女性と母親から虐待を受け「ムシ」と呼ばれる少年が出会い、共鳴するお話。
鑑賞後は心がじんわりと温かくなりました。
過去の出来事から心に深い傷を抱えた貴湖がムシ君の声なきSOSを聞き、助けよう、自分がただ一人の理解者であろうとする健気な姿には泣きそうになりました。

今作ではヤングケアラー、虐待、トランスジェンダーと解決が容易ではない課題を扱っていますが、どれも共通して一人では解決出来ないことで。
手を差し伸べてくれる、声なきSOSを聞いてくれる存在の大きさ、尊さをより感じられましたね。
「家族は時に呪いになる」という言葉が自分にはちょっと刺さりました。

ストーリーは回想を挟みながら進むのですが、貴湖の過去が明らかになるにつれてどうかこれ以上貴湖を苦しめないでくれ……
となって見るのが辛かったです。
そんな貴湖の声なきSOSを聞いて手を差し伸べ、助けてくれる安吾さんの存在がとても頼もしくて。叶うことなら二人で共に歩んでほしかったです。
安さんがいたから貴湖は心が壊れる寸前から再起できたんですもの。
でも安さんも安さんでトランスジェンダーという性自認で悩んでいたんですよね。もしかしたら貴湖を救うことで自分が存在する意味や不安な気持ちを拭い去りたかったのかもしれません。
そんな安さんの葛藤、後半の苦しみそして決断には胸が痛みました。
安さんのお母さんの言葉がまた沁みましたよ。
外見が変わっていようが安さんは安さんなんですよね。他の誰でもない。

もし安さんが性別に囚われず、必要としてくれる人と共に歩めたのなら……
心を通わせられる「魂の番」が隣にいてくれたら……
きっと未来は違っていたでしょう。
でも貴湖の中にいつまでも安さんは生き続ける。これでよかったんですよね。
性別や年齢なんて関係なく自分にとって特別、必要な存在となる人と巡り会うことの奇跡と心の結びつきを厳しくも優しく描いた綺麗な作品でした。
たらお

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