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隣人X 疑惑の彼女のfujisanのレビュー・感想・評価

隣人X 疑惑の彼女(2023年製作の映画)
2.7
和製「メン・イン・ブラック」にもなりそこねた、原作改悪の映画

90年代に大ヒットした映画「メン・イン・ブラック」は、既に地球上には多くのエイリアンが人間の姿で暮らしている、という世界で繰り広げられるSFアクション・コメディであり、同時に黒人差別を考えさせる名作でした。

本作は、2020年第14回小説現代長編新人賞を受賞したパリュスあや子さんの同名SF小説を、7年ぶりの映画主演となる上野樹里、林遣都という実力派俳優で映画化した作品。

実はちょっとしたお付き合い案件で観ることになった映画だったのですが、原作も少し知っていたことから楽しみにしていた映画でもありました。

で、最初に結論ですが、残念ながら、原作を大胆に脚色した割には、その試みは失敗しているようにしか思えてなりませんでした。

登場人物も減らして良子と笹のラブストーリーにフォーカスしたいのは分かりましたが、そのために雑誌記者である笹(林遣都)が良子(上野樹里)に接近する目的が変わってしまっており、ラストシーンも原作より踏み込んでしまっていて、物語から受ける印象が変わってしまっていました。

また、『この映画はいつの時代を描いてるの?』と思うほど舞台設定が古いうえに、プロットに影響する重要な部分で設定が甘く、これはもう、脚色(脚本)が悪いとしか言いようがありません。

<例>
・時代錯誤の怒号が飛び交う雑誌編集部、既に今ではすっかり見なくなった、大量の芸能リポーターが一般市民の取材対象を取り囲む取材風景。個人的には、昭和を懐かしむ映像に見えてしまいました

・台湾からの留学生リンが、彼氏から『台湾で流行ってる歌を聞かせて』と言われて流すのが、胡弓の台湾伝統音楽って、、えーと、若い女性なんですけど時代設定合ってます?(ちなみに原作ではベトナム留学生)

・雑誌記者笹には両親がおらず祖母が老人ホームに入所中。ただ、笹は契約社員で収入が安定せず、ホームの費用を滞納していて、月末には出て行ってくれと言われている、、、なのにピカピカのSUVに乗ってるって、、設定合ってます?とりあえずまず車売って、ホームの費用払ったほうが良いと思うんですけど・・・

などなど、一つや二つならいいですが、こういう設定の甘さが気になりすぎて内容が入ってきませんでした。



『あなたの隣人はエイリアン(X)なのでは?』という恐怖から、移民問題を匂わせ、今一度、自分自身がイメージだけで他人にレッテル貼りをやってないかを問うテーマそのものは現代的ですし、俳優の演技も良かった。

原作では、「メン・イン・ブラック」のように、多くのエイリアン(X)は普段の生活で触れ合う人たちとして入り込んで平和に暮らしており、他人を傷つけるのはむしろ人間の方であるっていう社会風刺にもなっていたのですが、

それを恋愛映画に仕立て直す過程で色んな設定がガバガバになってしまい、何が主題なのかもボヤケてしまった映画のように思えました。

繰り返しになりますが、テーマそのものはとても良いと思いますので、興味あります方は、原作をあたってみられたほうが良いかと。




2023年 Mark!した映画:338本
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