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アイアンクローのinazumaのレビュー・感想・評価

アイアンクロー(2023年製作の映画)
4.7
家族という地獄…熱いプロレス映画を見せてくれるものだとばかり思っていましたが、あまりに悲惨かつホラーな展開に度肝を抜かれ、本作が実話であることすら途中から忘れてしまいました。予告編など前情報なし、プロレスにも詳しくないので当然エリック一家のことなど何も知らない状態での観賞となったこともあってか衝撃も大きく、記憶に深く刻まれたと思います。

序盤からセリフに頻繁に出てくる「呪われた一家」というワードが後半にそのまんまの形で具現化するという実話とは思えない物語構成。兄弟たちが死ぬ瞬間が映らないのも不気味。親父フリッツがナチス・ドイツ系であることや、親父に贈られたピストルなど恐怖の伏線も散りばめられています。特に印象深かったのが冒頭の一家団欒シーンで家族に取り囲まれるダイニングテーブルが、最後にとても悲しい使い方をされるところ。あれも実話なのだろうか。
パムが言う「やらせ?台本あるの?」とか「神も運も信じない、幸せは自分で掴みとるんよ!」とか、さりげなくこの映画の存在そのものに向けたセリフ入れてきたり、終盤の"ある川辺"のシーンとか、映画ならではの演出が素晴らしかった。

怖いなんて言ってますが、ちゃんとプロレス映画としてアガッて燃えるポイントはおさえられていました。プロレスで一番好きなのは、ついさっきまで激しい死闘を繰り広げていたレスラーたちが楽屋で普通に戯れたり、称え合ったりするところ。だいぶ前に観たダーレン・アロノフスキーの『レスラー』はほとんどのシーンの記憶が曖昧になっているものの、お互い血まみれになるぐらいの激戦の後に楽屋で談笑する場面は鮮明に覚えてる。激しいバイオレンス映画や人怖系ホラーなんかのメイキング映像で、劇中では憎み合ったり殺し合ったりしてる役者たちが談笑したり称え合うところを見ると、心の底から役者ってカッコいいと思わせてくれるとともに、作品の印象は深くなり、作品の質もあがる。こういう「映画の魅力」をスポーツに置き換えたのがプロレスと言ってもいいぐらいプロレスと映画の結びつきは強い。
…絶望の淵に立つエリックたちの楽屋に、さっきまで嫌な感じで殴り合ってた血まみれのリック・フレアーが突如入ってきて「飲み行く?」ってケビンに声かけるところは激アツの名シーン。

ザック・エフロンという素晴らしい収穫もできて良かった。他ではみないタイプのイケメンであり、異様な存在感。彼の出演作品を調べてみましたが、別人すぎて衝撃。驚異の役作り。彼に夢中になりそうです!

📖パンフレットの感想📖
プロレスラーやプロレスファンによるプロレス視点の考察と、ショーン・ダーキンの経歴や過去作を通しての作品視点での考察とがあり、880円ですがとても濃厚な内容になってます。プロレス映画特集みたいなのも欲しかった!エリック一家の年表で分かる、六男の存在や、まさかの天竜源一郎の登場など衝撃の事実も…
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