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デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション 前章のJPのレビュー・感想・評価

3.8
▼浅野いにおワールド、全開!
「おやすみプンプン」と「ソラニン」しか読んだことないけど、あのシュールで破滅的でポップな浅野ワールドが見事にアニメ映画になっている!
幾田りらのモノローグだけで浅野いにお作品だとわかるくらい唯一無二の、気怠い世界観。

「大人の偉い人たちは何もかもが変わってしまったと言っていたけれど、私はむしろ何も変わらない日常が少し不満でもあって。でも、それはそれで一つの幸せだったんだと、今となってはそう思います」

このモノローグから漂う、大人への不信感や疎外感。過去を懐かしみ、今がどうでもよくなる。
幾田りらの声で再生されるこのモノローグは、かつて宮崎あおいが「ソラニン」のモノローグで「とにかくあの頃の空は、なんだかすっごく広かった」と言っていたのと全く同じ倦怠感をまとっている。

浅野作品のシュールギャグはアニメ映画の中で見ると更にヘンテコ。だけど、実写だと絶対に滑り散らかすし、物語の本筋に観客が集中できなくなってしまうから、アニメ化はめちゃくちゃ正しいメディアミックスだと感じる。
「四男、君には期待してる」の台詞がいちばん笑った。
(全く顔が同じ5兄弟が出てくるとか、実写でやったら不気味なだけで笑えないし、そこで日常描写にブレーキがかかってしまう)
(「デデデデ」のアニメ化が大成功したら、僕の好きな「おやすみプンプン」もアニメ化されたりしないだろうか…!)

▼過剰防衛の恐ろしさ
母艦は上空に浮かんだまま、何もしていないという設定がすごく良い。(ややシン・ゴジラ的でもある!)日照権を訴えるデモ隊はいるけど、母艦が3年間で風化しているというのが、コロナや原発、もっと言えば米軍基地の表象にも思える。だから母艦よりも恐ろしいのは、それを攻撃して排除しようとする過剰防衛の政府。その表象でもある「歩仁」のグロテスクさは、兵器のくせにエコを謳い、国民の日常を電力から奪い、兵器のくせに四足歩行(キャタピラじゃないんかい!)であるところによく表れている。そして攻撃に成功したのを見て群衆が叫ぶのが、「ニッポン!ニッポン!」であることの恐ろしさ。

▼以下ネタバレあり▼





▼あの& 幾田りらの演技力の高さに、脱帽。
というかあのちゃんに至ってはもう、なんで今までアニメ声優やってなかったの??のレベル。幾田りらは「竜とそばかすの姫」でも本人と気付かないほどナチュラルに主人公の親友役を演じていたけど、今作の二面性のある門出役はレベル高くない…?気づけば闇堕ちしてしまっている門出の声の主が、幾田りらだったことなんて、完全に忘れていた。

▼「大いなる力」により浮き彫りになる、人間の愚かさ
「終末世界における、JKの日常コメディ」かと思いきや、しっかり「おやすみプンプン」ばりの鬱展開が用意されている今作、おそろしすぎる…!
しかも鬱展開は、終末世界が原因ではなく、拾った宇宙人によりもたらされた「大いなる力」を使いこなせなくなることに起因しているというのが◎
ドラえもん的なひみつ道具を使えば使うほど、主人公の傲慢さや業が浮き彫りになっていくのは(「おやすみプンプン」の影響もあると言われる)「タコピーの原罪」っぽさもあり◎
ただ「おやすみプンプン」と違って、今作では闇堕ちした門出をおんたんが張り倒す。プンプンが孤独だったのに対し、今作は孤独ではない二人の物語になっていて、胸を打つ。


▼何が真実なのか
原作未読のため、多くの謎が持ち越されたこの前章にめっちゃ翻弄されている。いちばんの謎は、あの過去が真実なのか、虚構なのか。門出もおんたんも、現在とはほとんど性格が違うし…。現在とは別のパラレルワールドの話なのか、あの後宇宙人に記憶を消されて別の記憶を移植されたのか…??!そこが解き明かされないまま、「な、何を見せられていたんだ…?!」の状態で一旦幕引きになるので、面白いかどうかの評価はまだ難しい…。早く後章が観たい!!
JP

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