コブヘイ

ビニールハウスのコブヘイのレビュー・感想・評価

ビニールハウス(2022年製作の映画)
4.0
主人公の選択が起こす負のスパイラルにより加速する、やるせなさ満載の地獄行きジェットコースタームービー!

「半地下の方がまだまし」というキャッチコピーと、ラジオ番組の課題映画になったために鑑賞。
ビニールハウスに住む人々をテーマにした社会派ドラマかと思いきや、そんなところにしか住めない貧困層の主人公が、息子と一緒に住むことを夢みて頑張っているところにある事故が発生、それを隠ぺいしようともがくなか、どんどん最悪な状況に転がっていく様を否応なく見せられるきついサスペンス。

開幕はタイトルのビニールハウス。 遮光用シートを付けているのか外観は暗く、中は見えない。 そこに住む主人公ムンジョン。起き上がるなり自分の頬を強くたたく。
そこから少年院?のような場所で、神妙な顔の息子に面会している主人公。 出所しても一緒に住みたくない様子。自分を観たら父さんを思い出すだろうなんてセリフがあるから父親を殺したのかと最初思ってしまうほど居た堪れない状況(実際は離婚どまり)の後、帰る途中で頬を叩く主人公。

もう開幕10分で居た堪れない。

続いて主人公が働いているシーン。 老夫婦の家で介護をしており、目が見えない旦那さんは優しいものの、認知症を患っている奥様はなぜか主人公を敵視。奥様の表情と目線が痛い。
そこに自傷行為の治療で通い始めたセラピーで出会った女性に何気なく声を掛けて相談に乗ったところ、好意を持たれてしまうめんどくさい状況が追加。

淡々と、BGMもほとんど無く描かれる主人公の生活と周りの環境。
見ているだけでこちらも心がギリギリしてくる生活の中、少しづづ作られていく非情なドミノ。
絵作りや編集が上手いので、とにかく違和感に近いほど静かなのに目が離せないサスペンスを堪能させてくれます。

初長編映画だそうですが、とてつもない才能ですぞ。

さりげない伏線も含めつつ、コツコツと積み重ねた前半を経て発生する大事件。ここでムンジョンが決定的にドミノを倒す決断をする理由が実に上手く挟み込まれていて本当に居た堪れない。
そして始まるギリギリの人間による、ギリギリの隠蔽作戦が展開。
そもそも行き当たりばったりの中、ほとんどブラックジョークのような危機が連続発生し、それを半ばご都合主義のような展開がおきてかわす、ギリギリの綱渡りで進む。

次々起こる展開は予想した悪い方向にどんどん進みつつ、適度に外しテクニックもあるのでやはりサスペンスが保たれているのがポイント。

ご都合主義にも見えていたすれすれの危機回避が全て裏返るクライマックスは、ノンストップ暗黒ジェットコースターのごとく。
最悪と思われたマンションの一室でゴールかと思いきや、やはりスタートに戻りビニールハウスエンド。
このジェットコースターからの静かな切れ味もまた見事。

元々監督の介護経験から思いついた話とビニールハウス問題を上手く組み合わせて作り上げたそうで、貧困から介護、家族関係など身近な問題を扱っている所がより居たたまれない思いを持ってしまうのかも。

とにかく主人公に辛いことしか起きない話なのに、その主人公ムンジョンを演じるキム・ソヒョンさんの凄まじい演技と最悪の結果に至るまでの丁寧かつ緻密に作られたお話のマリアージュで画面から目が離せない、非常に見ごたえがある作品でした。
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