コブヘイ

12日の殺人のコブヘイのレビュー・感想・評価

12日の殺人(2022年製作の映画)
4.0
警察だって人間だもの!な生活感溢れる描写と凄惨な放火殺人事件を地道に捜査する描写で重いテーマを映し出す、静かな緊張感を生み続ける良質なサスペンス。

山間の村で女性が火を付けられて殺される事件が発生。事件を追う刑事たちは容疑者と思われる男性陣を捜査するが決定的な証拠が見つからず難航。そんな捜査の過程で女性に対する偏見に気付かされたり、私生活に翻弄される様をリアルに描いた静かなお話。

フランスで実際にあった未解決事件をモチーフにしているそうで、未解決事件を扱った映画と言えばデビット・フィンチャー監督の傑作「ゾディアック」ですが、あちらは連続殺人である為かなりセンセーショナルでエンターテインメントな作品でしたが、本作においては被害者は一人であるため話の進行は地味。 ただ地道な捜査過程で、事件の奥に潜んでいる女性蔑視の問題が見えてくるという違うベクトルで重厚な作品になっていました。

そんな本作は、警察署のリアルというかあるある?を随所に投入。 ファックス機が壊れて直そうと必死にDIYしたり、深夜まで残業したり、奥さんと上手くいかない事を悩んだり、余ったソファーを持ち帰ろうとしたり。監督と脚本家が実際に警察に赴いて取材した結果だそうで、凄惨な事件と地道な捜査の合間の緩衝材としていながら作品全体の静かなトーンにも合っていて独特のリアルさを産み出しています。

上半身が焼け焦げたなかなかショッキングなシーンや訃報を聞いて泣き崩れる母親など、小さいながらも凄惨さが伝わる事件内容。
しかし被害者についての聞き取り内容は彼女の性に対する奔放さを示すものが多く(だいたい男性からの証言)、自然と警察側も容疑者の普段の行動に問題があったのではと思いこむ中、涙ながらに訴える被害者の友人のシーンは見ているこちら側もハッとさせられました。

とは言え現実は厳しく、そこから警察の努力もむなしく捜査は難航し、職員の暴走があったりもして3年が経過。しかし止まっていた捜査が一人の女性検事によって動き出し、再捜査が始まる。
果たして真犯人は見つかるのか?

何の落ち度もない女性が妬んだ男性によって最悪の結果になる事件は日本でも残念ながら各地で起こっている事であり、本作の重いテーマは十分に心に響いてきます。
ハリウッドと違って映画らしい決着をせず、未解決事件であることそのままにした結末は人によってはモヤモヤするかもしれませんが、主人公がその先に進んでいく道は爽やかな後味を与えてくれる、静かで重く非常に見ごたえのある作品でした。
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