コブヘイ

アイアンクローのコブヘイのレビュー・感想・評価

アイアンクロー(2023年製作の映画)
4.5
鍛えられた肉体が輝く試合描写と、マツズモに囚われた家族ドラマの対比が切なく引き込まれる、呪われたプロレス一家の実話映画!

タイトルとなる「アイアンクロー」の異名を持つ、日本でも有名なプロレスラー、フリッツ・フォン・エリックとその家族を描いた本作。
プロレスには全く疎いながらも評判を聞いて鑑賞、情報がなくても十分に伝わる凄まじいプロレスラーと家父長制の呪いに打ちひしがれてきました。

実在のレスラーを扱った作品としては「ファイティング・ファミリー」がありますが、ロック様も出てくる陽気な作風とはベクトルが真逆な本作。テイストは「フォックスキャッチャー」に近いと思います。死人も出ますし。

フリッツは最強のレスラーにするべく4人兄弟(実際は6人。長男は5歳で事故死。6男もいたが同じく事故死しており、不幸過ぎて監督判断で除外したそうな)を鍛える。
次男であるザックエフロン演じるケビンは真面目で実直。実際にエフロンが鍛え上げたボディは惚れ惚れするほど仕上がっていて抜群の説得力を放つ!ところが彼はマイクパフォーマンスが下手。マイクパフォーマンス次第でスターになれる特殊なプロレスでは致命的(この辺はパンフレットに元レスラーさんによる解説が載っていてマストバイ!)。
そんなこんなで順調にステップアップしている中で、3男デビットによるマイクパフォーマンスが受け、またオリンピックを諦めてプロレスラーに転向した4男ケリーも参戦。団子三兄弟ならぬフリッツ3兄弟で人気が爆上がり。遂に最強の証であるNWAチャンピオンベルトを争う権利を得る。
しかし父親が選んだのはケビンではなく3男デビット。ケビンの気持ちを遣う彼がまた切ない。
気を落とすケビン。ただ彼には父親とは別に支えとなる彼女がいて、「ベイビードライバー」のリリージェイムズが誠実かつ明るくキュートなオーラを持ってバムを演じてくれて、ケビンと共に観客をも明るくしてくれます。
話はここからずぶずぶと不幸の連鎖へ。 日本での海外遠征中にデビットがホテルで事故死。
デビットの代わりにチャンピオンに挑戦して遂に悲願のNWAチャンピオンとなったケリーは、浮かれて酔ったまま夜の街をバイクで疾走する。呪いを知っている観客としてはただただ恐ろしいバイクシーン。次のシーンでベットから起き上がる彼を観てやや安心していると更なる恐ろしい絵が。
音楽を愛する5男マイクもレスラーになる道を選び(母親にバンド活動を有無を言わさず否定されるシーンがまたせつない)、ケビンが指導。この特訓シーンは後半の少しだけ明るいシーン。もちろん待ち構えるのは不幸でしたが。
ここまで怒涛のように呪われた一家。それはケビンにも忍び寄る。
クライマックス近く、遂に回ってきたチャンピオンになれるチャンス。 父親とマチズムの呪い、家族の不幸を恐れる彼が選択した結果の切ない事よ。
ただその選択により、最後まで残ったケビンが得たかけがえのないものをラストに提示されることで、この呪われた家族のストーリーは何とか救われて、しっとりした後味で締めてくれます。

演者それぞれが鍛えたあげた肉体が見せるプロレスの試合は華やかで見ごたえ抜群! しかしリングを降りると残るのは酷使した肉体の痛々しさと悲壮感。レスラーとしての宿命ではあるものの、厳しい生活が呪いとは別に染みいること間違いなし。
でも対戦相手やチャンピオンは微妙に緩んだ体形をしていて、それもまたレスラーらしく少し微笑ましい。

結果として今も生き残っているケビンを中軸として、プロレスチャンピオンを目指すスポーツ映画として上がる前半と、マチズムと父親によって壊れていく兄弟達とその愛が切なく呪いによる不幸の連鎖がサスペンスフルな後半の味わいが全体として見事に調和した、素晴らしい人間ドラマでした!
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