ナガエ

ビニールハウスのナガエのレビュー・感想・評価

ビニールハウス(2022年製作の映画)
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決してつまらなかったわけではないのだが、良かったなぁ、という感じでもなかった。

というかこの作品の場合、必然的に観客のハードルが上がる状況がそもそも存在すると言える。

本作の予告は、映画館で散々観たが、その際、「半地下はまだマシ」というフレーズが使われていた。明らかに、映画『パラサイト』を意識したコピーである。「貧困」がテーマの作品であり、さらに「他人の家族に寄生していく」という『パラサイト』の設定と似ていなくもないという感じもある。

そしてそうなるとやはり、本作を映画『パラサイト』と比較して観るような感じになる。そしてその場合、やはり、『パラサイト』よりは劣るよなぁ、という感覚になってしまうのだ。

「半地下はまだマシ」というコピーは、とても秀逸だったと思う。どんな創作物でもそうだが、「触れてもらわなければ何も始まらない」のだ。だから、「半地下はまだマシ」というコピーで映画『パラサイト』を連想させて興味を惹き、それで劇場に足を運ばせるのであれば、それはコピーとしては大成功と言えるだろう。

しかし、それは当然だが、鑑賞のハードルも上げることになる。「興味を惹くこと」と「ハードルを上げること」は、今回のやり方の場合トレードオフというわけだ。そして僕の感触では、本作は映画『パラサイト』と比較出来るほど良かったとは思えないし、そして、『パラサイト』を意識させたことで「良い部分」よりも「良くない部分」の方が目立つことになったと言えると思う。

まあ、「観てもらうこと」を優先するか「鑑賞後の評価」を優先するかの選択であり、それは作り手側の選択なのでどちらでもいいのだが、僕としては「ちょっとなぁ」という感じの作品だった。

本作は、ラスト20分ぐらいの、色んなことがバババッと展開していくのだが、その構成は上手かったなと思う。それまでに提示してきた様々な要素を、最後に一気に放出して、「絶望からのさらなる絶望」を演出していく感じは、とても上手いストーリー展開だったなと思う。「因果応報」という、とても分かりやすいメッセージを持つ展開ではあるものの、「貧しいが、人間的にはとても優れた主人公」をどん底にまで叩き込む感じは、なかなか良かったと思う。

また、主人公のイ・ムンジョンは、「盲目のテガンと、その妻で重い認知症を患うファオクの訪問介護士」なのだが、この設定が絶妙に生かされた展開もあり、普通にはなかなか成立し得ないだろうかなりムチャクチャな状況がリアルに現出する辺りは、なかなか良かったと思う。

個人的にちょっと弱く見えてしまったのは、「主人公が犯行を隠匿する動機」だ。もちろん、それは作中で描かれるし、理屈としては理解できる。ただ、それ以上に主人公は、「認知症の症状のせいでファオクから厳しいことを言われても苛立ちを見せることなく、かなり大変な仕事だろうに、恐らく『求められている以上』に介護の業務をこなしている」という、「とても優れた人格の持ち主」に見えるのだ。

もちろん「優れた人格の持ち主」であるからこそ、後半の展開との落差が生まれるわけだが、しかし、そもそも「こんな優れた人格の持ち主が、犯罪の隠蔽なんかするかね」とも感じてしまうのだ。その「動機」の部分の描き方が、ちょっと弱く見えてしまったので、個人的には「説得力」という点でちょっと欠けるなぁ、という印象だった。

割と期待感が高かったので、「ちょっと残念」という気分の方が強い。
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