netfilms

毒のnetfilmsのレビュー・感想・評価

(2023年製作の映画)
4.2
 『ヘンリー・シュガーのワンダフルな物語』に端を発したウェス・アンダーソンの奇跡のような4楽章は40分の中編+17分の短編3本だが、もともとこれは92分の長編を強引に4つに切り分けるような大胆な試みではないか。レイフ・ファインズやベネディクト・カンバーバッチなど主に登場する役者が各シークエンスの語り部として登場し、中堅の役者がそれぞれのシークエンスの演者を担う。ウェス・アンダーソンは色調や画角、カメラの動きに気を配りながら、切り分けられた短編3本ではまったく異なる自身の引き出しを提示し、作品としての最適解を模索する。『アステロイド・シティ』のようなゴージャスな画面は流石に作れないが、有名俳優たちを大挙起用した長編のそれぞれの見せ場を用意しなければならない苦しさよりも、純粋に作家的野心は試せる。ベネディクト・カンバーバッチ再登場となる今作はまさかのレターボックス・サイズのフレームに前2作では黄色がかった配色のイントネーションが今回は青を基調とし、2分割カメラからシンメトリーの美しさを破壊する様な画面グラつきなど、ここでは直近の長編の紙芝居的な平面的な演出には見られなかったウェス・アンダーソンの並外れた活劇性が牙を剥く。メタ的な演出よりも様々な技法が前面に押し出されるのがウェス・アンダーソンの手癖だとするならば、92分の長編として提示するよりも40分の中編+17分の短編3本に切り分けられた手法の方がよりウェス・アンダーソンの底知れぬ才能を内外に提示出来る。9月末から4本提示されたウェス・アンダーソンの4種のバリエーションのギフトにはいやはや心底参ってしまった。ウェス・アンダーソンの才能に私は惚れ直している。
netfilms

netfilms