しの

ゴールド・ボーイのしののレビュー・感想・評価

ゴールド・ボーイ(2023年製作の映画)
3.6
作品内容的にもまさに「演技合戦」と言っていい。正直、勘のいい人は冒頭のモノローグで読めるので、そこまで予想が裏切られるサスペンス! みたいな感じでもなかったが、それよりも「この人はなぜこうなったんだろう」と想像を馳せさせる余白があるのが良かった。タイトルが切ない。

展開が転がり続けるので退屈せずに130分走り切れたが、実はこの映画の見どころはサスペンスそれ自体より、この「演技合戦=サイコパス合戦」が繰り広げられるに至った背景、すなわち日本社会の閉塞的な空気というものが、観終わった後にゆらゆらと立ち現れてくる余韻にあるのではと思う。劇中、刑事が「この島は知人や思い出だらけ」といったことを話すが、それは島の閉鎖性をよく表している。つまりこの舞台は「格差的で人生のリセットが効かない社会」の象徴でもあるのだ。本作では様々な殺人が発生するが、そこに至らせたのは何か? を想像させることに主眼があると思う。

サスペンスとしては、一番ヤバいのは誰かが序盤から明示されているようなものなので、ではどれくらいヤバいのか? を見守ることになる。そこも正直、予想を大きく超えてこないが、その過程で「ああ出会い方が違えば……」という瞬間がいくつもあるのだ。金子監督を起用した意図はこっちか! と納得した。基本的に、東昇と朝陽の対決構造ではあるのだが、彼らは名前に象徴されるように同根の存在で、東昇にとって朝陽は自分の「黄金時代」を投影する存在でもある。銀メダルと金メダル。“自分を超える未来世代を導く大人”の構図になれたはずなのに、実際、劇中で朝陽が彼から学んだものは何だったか。切ない。

そしておそらく、この東昇という人物は閉鎖的な社会の犠牲者でもあるだろう。弱肉強食の論理でのし上がるしかなかった哀しい男。彼の計画は結果的に中学生たちに狂わされるわけだが、仮に成功していてもそこに幸せはなかったはずだ。画面外で浩と仲良くしていることが語られるのがまた切ない。そこにあるのは本当に打算だけだったのだろうか。

言うまでもなく、そういう大人の背中を見て子どもは育つのである。互いに利用しあう関係の中で仮初にしか、あるいはまさに「演技」でしか絆を結べないということの悲哀。とくに朝陽は「なぜそうなったか」が最も汲み取りにくいが、その断片はあるし、あえて謎にしているのだと思う。

とはいえ、特に「演技合戦」に主眼が置かれていないはずの脇役の演技にも鼻につく部分があったり、「あ、このあと何か起こるな」みたいな露骨なアングルが多かったりで、題材の割にネジは緩い。ただ、サスペンスに身を委ねていると時折「ありえた黄金時代」を幻視してしまうという切ない作りはとても良かった。

※感想ラジオ
『ゴールド・ボーイ』は演技合戦がすごい!そこには日本への批評も【ネタバレ感想】 https://youtu.be/7-8YRgEBJM0?si=VzEAjdzl_ElHWadY
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