しの

アメリカン・フィクションのしののレビュー・感想・評価

アメリカン・フィクション(2023年製作の映画)
3.5
面白いは面白いが、世間知らずな中年が家族を含めた生活の「リアル」に向き合う話として観ようにもメタ構造の皮肉がそれを邪魔するし、かといって皮肉に切れ味があるかというと、この皮肉自体はそこまで掘り下げるべきものでもなさそうだしで、中途半端な印象を受けた。

「皮肉で書いたつもりの本がアホな白人にウケちゃって……」という筋はあくまでも入り口で、やがてこの主人公自身が「誇り高い黒人 vs アホな白人」という対立項を内面化していたり、そこに「世間に認められない自分」という問題を仮託していたり、そもそも全方位的に見下し傾向があったりということが描かれてはいる。となると、まずは皮肉的なコメディとして物語を進めて、やがて主人公自身の根にある問題に向き合っていき、対立項がある種の虚像であることを示していくという流れが自然だろう。

しかし、「多数決」のくだりなど、終盤まで皮肉的な構造は保たれたままなわけで、さらにラストのメタ構造で本作自体もそこに乗っかってしまう。この「多数決」のくだりあたりになってくると、本作がここまでコテコテの皮肉であり続けることに違和感が芽生えてくる。それすらひっくり返すメタ的なラストがエクスキューズになるのかもしれないが、それでは本当に皮肉だけになってしまうし、それなら初めから皮肉の面白さを追求してほしかった。自分のことが描かれているはずなのに引き続き「アホな白人」であり続ける映画監督とか、正直ワケが分からんし、本作自体がその皮肉のレベルに留まってしまうのはいいのか……と思ってしまう。

皮肉がやりたいのか家族のドラマをやりたいのかその対立項を崩していきたいのかがよく分からないというのは、撮り方にも表れていたと思う。主人公が人生の問題に直面して佇む画なんかは印象的だったが、基本的に全体がフラットだ。どういうノリで観ればいいのか掴めないままだった。同じ年のアカデミー作品賞ノミネート作品と比較するのであれば、個人的には最後に対立項を超えていく『バービー』や『哀れなるものたち』の方が印象的だった。
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