あおは

ゴールド・ボーイのあおはのネタバレレビュー・内容・結末

ゴールド・ボーイ(2023年製作の映画)
4.2

このレビューはネタバレを含みます

以前から映画館で見ていた昭和感や仮面ライダー感の漂うチラシや、海の絶景に筆書きの黄金少年というオープニングで、渋いなぁと思っていたけれどお話に渋さはなく、よくできたサイコパスサスペンスだった。

婿養子である男、東昇とその義父母の幸せそうなシーンから始まる。東昇にプロポーズした場所を見せたいと海を一望できる崖上に連れていく義父母。そこで2人の写真を撮ろうと提案する東昇。義母が照れるところのやり取りも和気藹々としていて微笑ましいのに、東昇がカメラを落とすところで空気が一変する。
地面に落ちるカメラのカット。
このシンプルさと淡白さが、東昇という男の恐ろしさを強調しており、優しい笑顔がプツッと切れる瞬間がとても狂気的。

一方でもうひとつのお話も進んでいく。
話し方も人あたりも優しすぎるのではないかと思うほどの中学生、朝陽。
朝陽の家に来るなりすぐ食べる物を要求してくるヒロシとナツキは、どこか非常識さが浮き立つ。ヒロシとナツキも血は繋がっておらず、ヒロシは茶髪でいかにも家庭が訳ありそうな雰囲気。
ヒロシは朝陽のことを誰よりも信じているとナツキに言ったり、高校生をナイフで脅してお金を奪ったり、朝陽のお金をヒロシが数えていたり。
朝陽と比べるとヒロシは悪の要素を持っていて、優しい朝陽は利用されているのではないかと心配になった。
そう思わせるのが巧い。
誰よりも信じているという言葉も、その裏には裏切ったら許さないというような強い意味を感じることもできるし、朝陽のお金をヒロシが数えるところも、ヒロシは朝陽のことを財布としてしか見ていないのではないかとも思わせられる。
「僕たちの問題さ、みんなお金さえあれば解決しない?」
純粋そうに見える朝陽だからこそ、撮影してしまった殺人の映像で東昇を脅してお金をもらおうという提案には驚くけれど、それよりもやはり不安や心配が勝る。逆にやられて終わるのではないかと。

ここからは東昇の強者感が示されていく。
車のなかでヒロシがナイフを向けるところも外からだと強盗に見られるから低いところで向けたほうがいいのではないかと言い余裕さが窺える。
1人2000万円ずつ、計6000万円を請求したあとも、大爆笑しながらも感情のない大人の強さを見せてきて、子どもたちが殺られるのではないかとハラハラする。
強気に出る朝陽も粋がっているように思えるし、東昇が去ったあとの、アイツビビってたなという子どもたちのやり取りも強がりに見えるほど、東昇は圧倒的に賢く恐ろしい人物として描かれている。
東昇の妻である静が刑事である江口洋介演じる巌に東昇がやったに違いないと捜査依頼をし、完璧とまではいかないもののなかなか鋭い視点で切り込む巌に対して、お義母さんが落下するお義父さんの腕を掴んだから2人が落ちていったのかという頭の回転の速さを見せ、さらに東昇の強者感が示されていく。

東昇の家に行くシーンでは、朝陽とナツキしか登場しない。2人の身に何かあったときのためにヒロシを置いてきたり、本の陰に隠されたナイフを見つけたり、朝陽たちが一枚上手であることが匂わされ、もしかしたらこの少年、朝陽もサイコパスなのではないかという予感を抱かされる。
母親の前では母親の味方をして、父親にもお茶を出して柔らかい対応をして、とてもいい子に見えていたから、父親を殺したいと淡々と言い放つ朝陽からも狂気的なものを強く感じた。匂わされる賢さや狂気さがじわじわと溢れ出てきて、やがて朝陽が圧倒的な強者感を示すまでの流れがとても巧いと感じた。
高校数学の問題をスラスラ解いてしまうところも、その頭の良さと笑顔がやけに恐ろしく見える。初めは強さを見せていた東昇に対して強気に出ていき引き下がる様子をまったく見せず、朝陽が圧倒して飲み込んでいく様子が気持ちよくも感じた。

「わたし人殺しじゃない」と言いながらナツキと朝陽が手を繋いで走るシーンは、いつの間にか2人が手を繋いでいるのを捉え、危うい状況のなかでの恋心だから、それだけで切なさや儚さを感じて胸がキュッとなった。
「明日さ1日だけデートしよ」というセリフや朝陽と繋がっていたいという思い、朝陽に手紙を書くナツキの描写。
切なくてとても泣けた。

どんな終わらせ方をするのか、どこまで連れて行ってくれるのかというワクワク感を抱きながら観ることができ、朝陽は生きているということは予想できたけれど、3人を殺したと思っている東昇が1人で乾杯をしながら音楽を流すシーンも狂気を感じて自分好みだった。
ラスト、道路を挟んで朝陽と巌がお互いに見つめ合う、睨み合う。
悪寒がするような後味の悪さになりそうだと思っていたところで、最後は2人の感情的なところに着地させてくれたのがとても良かった。

東昇を演じた岡田将生は、死んだ目の奥にある怒りを演じるのがとても上手かったし、朝陽を演じた羽村仁成くんは、はじめは子役特有の真っ直ぐな演技かなと思っていたらしっかり裏がありしなやかな演技で驚かされた。リボルバー・リリーにも出演していて、そのときも演技がすごく良かった覚えがあるから羽村くん追ってみたい。
ナツキを演じた星乃あんなさんは、とても可愛らしい雰囲気を持っていて、それがあったからこそこのお話には切なさも生まれていて、適役だったと思った。
そして、北村一輝と江口洋介がいたことがとても嬉しかった。
あおは

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