Ryo

ありふれた教室のRyoのネタバレレビュー・内容・結末

ありふれた教室(2023年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

新たに赴任した中学校で一年生のクラスを受け持つ、正義感の強い若手教師カーラ。そんなある日、盗難事件の犯人として教え子が疑われる。

カーラは職員室にカメラを設置すると、同僚の事務員クーンと思しき人が盗みを働いている映像を確認する。その後、その噂が広まり、保護者の批判、生徒や同僚教師との対立を招いてしまうという話。

教育システム、移民、SNSの発達による影響といった社会問題を軸に上手いことまとめた力作。

犯人はクーンで大方間違いではないかと思うんだけど、不透明なままだから動機などは描かれていない。新任の教師へのいびりみたいなものも理由としてあるのかなと。

嫌疑がかけられてから、オスカーと一緒に帰るとか、追い込まれている人の心理がダダ漏れなんだよね。カーラに対して怨嗟を買うのは意味わからんけど。

まぁ確かに、職員室ってプライバシーな場所だから、隠しカメラを仕掛けるのは悪辣な行動ではあるんだけど、それをしなかったら今も犯人はのうのうと一緒に働いている訳で、それはかなり厳しいものがあるよねっていう。

本校はゼロトレ方式を採用しているんだけど、初めに疑われるのは男子生徒だったり、トルコ系移民のパティスが真っ先に疑われたり、決めつけ感が否めない。

先生自身もポーランド系の移民だからパティスを信用をしてはいたけど。

体育の授業の裏でヘロインを嗜む生徒や事務室でタンポンを買う生徒がいたり、まぁリアル。

為替の保証金とか、生徒自身が成績順を可視化したいとかドイツならではの学校のシステムが見受けられた。


ルービックキューブの「側面が一色になるまで回し続ける」もゼロトレのメタファーっぽいですし、タレスの数学で予測ができたことで「予測不可能なことが可能に」みたいな言葉は、隠しカメラのメタファーなのかなとも思う。

ゼロトレは不寛容だが、ポパーの寛容のパラドックスは不寛容に対しても無制限な寛容を示すべきではないというもの。

まさに隠しカメラがそれに当たるのかなと。


カーラ自身もバランスを取りながら生きているのかなと思う場面も多く、これは役柄というか本人の癖なのかもしれないけど、右利きなのにキャップを左手で開けたり、カバンを左肩に掛けたり、赤と青のニットとか、だからこそ崩壊を恐れているというか、暴力を振るったオスカーに対して「転んだだけだわ」って彼を擁護するような発言があるんじゃないかなと感じました個人的に。

このカーラの役ってめちゃめちゃ大変だったんだなって思ったのが、光の差し方なのか、クラス移動のカットの時に白髪が凄かったんだよね。それ見て魂を燃やしたんだなと思ったね。

監督本人も移民だったようでインタビューで「僕はトルコ系であるということを隠そうとしていた。クラスで唯一肌が茶色の生徒だったから。それらの事実がこの映画に大きく関係している。例えば盗みの疑いをクラスで最初にかけられるのは、移民の生徒だ。小さな出来事が度重なるうちに、それは次第に大きな事件や誹謗中傷にふくれあがっていくんだ。」と語っている。

ドイツでは移民の割合としてトルコ系が一番多く、300万人いる。それでもマイノリティだからこそ、他者への見られ方みたいなものを意識せざるを得ない環境なのでしょう。

撮影方もヒッチコックのサイコのようなクローズアップショットがとても良かったので、次回作も楽しみに待ってます。
Ryo

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