Ryo

オオカミの家のRyoのネタバレレビュー・内容・結末

オオカミの家(2018年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

1960年代にナチスの残党がチリで作った「コロニアディグニタ」。

本作はその男児への長期にわたる性加害や差別、抑圧といった大きな社会問題になったことで知られる歴史的犯罪カルト集団にインスパイアされて、製作されたストップモーションアニメです。

全体をざっくり説明すると、この作品はカルト教団のプロパガンダ映像、洗脳ツールという設定で、コロニー育ちのマリアがそこを抜け出して、森でオオカミに追われるシーンからスタート。

オオカミはナチスの脅威を口に出し、降伏を呼びかける。彼女が避難した先の家には2匹の豚がいて、その子らと暮らすんですが、飢餓からそいつらに殺されそうになって、結局元いた場所に戻るという話。

撮影はCanonのSIGMAで行われているとのことですが、とにかくコマ撮りの映像表現がすごい。壁や絵画やらベッドなど家全体のありとあらゆるものを使って、アートを表現している。

それがワンカットのようであり、シームレスで連続的というか、今まで見たことのない悪夢を70分間観た気がします。

ベッドにいたマリアのパーツやらメイクアップが液体のようにするっと流れていったり、点から全てを作り出すような表現はNARUTOっぽいなとも思ったり。

平面と立体の使い方が見事だし、言葉が先行して縛られていく過程とか、張子もそうだけど、新しい。

監督のインタビューで「全シーンで同じことをしない」と語っていたりするんで、なるほどなーと感心。チリの映画は90%が国から援助を受けていると言うんだから力を入れているのもわかる。

物語は最初からぶっ飛んでいてアンナが「ボールとランプが、動物、獣、人間を変える」みたいな言葉がある通り、彼女は魔法を使い?で、人間っぽい豚をアナとペドロという人間に変えます。

この辺は「美女と野獣」のインスパイアなのかなと思います。その他にも、『3匹の子豚』『コラライン』『不思議の国のアリス』『赤ずきん』『変身物語』等にも影響が見て取れるシーンがある。

イエスの肖像画やジョバンニ・ブラゴリンの「泣く少年」の絵画も飾られており、手の穴が開くカットとかは受難を表現したかったのかなと。

やたらと赤をイメージしたろうそくだったり、りんごだったり、風船だったりというのもあるので。

元豚の片方・ペドロだけ蜜を飲ませるというのはメタファーなのかなとも思うし、マリアも同じような行動を取ってしまうのが、歴史のループっぽくて怖いなと思いましたね。

個人的な解釈としては、豚は怠惰な人間、家畜とか、支配できるという意味合いでなったのかなと。

オオカミは道案内をして、人間を助ける身近なカムイ。

鳥は自由の象徴で、最終的に今のこの元豚君たちとの環境を清算することはできるんだけど、結局元の世界という名の鳥籠の中に入ってしまうっていう感じなのかなと。

ヤン・シュヴァンクマイエルの『darkness』辺りのエッセンスも感じたので、記憶忘れた時にまた見たいと思う👍🏾
Ryo

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