あおは

罪と悪のあおはのネタバレレビュー・内容・結末

罪と悪(2024年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

『罪と悪』という題名と予告から匂う重さの予感。自分の好みが詰まっている気がして期待感を胸に劇場へ足を運んだ。

殺人事件やミステリとしては正直、理解しきれなかったけれど扱っているテーマはかなりおもしろく、泣ける場面もあった。

今作は仲良しの4人組が自転車で下校しているところから幕を開ける。
その後、阪本春と吉田晃の家族の関係が描写される。
自分が想像したところだと、春の父親は無職で酒と煙草に暮れ奥さんにも愛想を尽かされた人物で、自分の非や弱さを認められずにプライドだけが育ち、自分よりも弱い春に暴力を振るうことで何とか保とうとしているクソ親父。虐待され母親っぽい女性もまったく助けてくれないこの場面で、本当に春を抱きしめてあげたくなった。
またひどい両親であったとしても春という素敵な名前をつけているわけだから、初めは愛を込めて育てようとしていたけれど、途中で妹の死がそれなのか、何かあったのだろうなとは思った。そこにも単に妹の死だけが関わってくるのではなく、両親の子どものころの環境などもっと複合的なものが関係してくるのだとは思う。
一方、晃の父親はこのシーンでは厳格ではありながらも警察官としての使命感を持ち子どもへの優しさも持つ人物にみえるが、親と子は違うからなというセリフで所謂“この町”の一員であることも分かる。
親と子が違うというのもそうだけれど、それ以前に人によって持つ親と家庭環境がまったく違うことがこの対比から分かる。これがこのあとのお話のテーマとどのように関わってくるのか。

罪と悪。
今作でこの2つにどのような意味をつけるのかを考えながら観た。
印象に残ったのは春の後輩なのか部下なのか健太郎という人物の言葉。
「罪は自分が悪いと思わなければ罪じゃない」
つまり、ここでの罪と悪の違いは、そのことを自分で悪いと思えるかどうか。客観的に見て悪いことのなかで、主観的に悪かったと思えることが罪、思えないことが悪。
今作での晃と朔(後に事情が変わる)は正樹殺しの犯人だと思った男性殺しの現場に居合わせ、自分たちも関与していること、その社会的な罪を春1人に背負わせたことをずっと引きずっている。罪を背負うこと、罪を忘れないこと、罪の意識に苦しめられることがいちばんの償いだとはよく言うけれど、罪と悪の違いはもっと根本的なところにあり、悪を罪だと気づくこと。それこそが償いの一歩だと言っているような気がした。そして下にも書いているけれどその償いこそが今作が訴える最も重要なことで、子どもの未来を守る大人になるということだと思った。

そこで気になったのが、中学生時代の話が終わり『罪と悪』という題名がスクリーンに出てきたところ。気になったのは文字の配置の仕方。たったの3文字だから、縦か横に並べればいいのに、スクリーンの左下で


と悪

という並べ方をしていて、構図が自分のなかでかなり気になった。
このときは理由が分からなかったけれど、観ていくにつれて何となく納得できる答えを見つけられた。
それはこの構図が階段を表しているということ。
大にしても小にしても、人生で犯した悪を罪であると気づくことが大人への階段で、悪を罪だと気づけずに罪だと認める強さも持たず、自分を正当化ばかりしてきた弱い大人が悪をもって子どもを汚し、その子どもは大人になったときに悪をもってさらに別の人を汚す。これが繰り返されていくから、誰かが悪から罪へと大人の階段をのぼり、止めないといけない。それが晃が佐藤さんに言った、未来の人たちを救うということだと思った。
子どものころに受けた悪が大人になったときに悪を生み、それが繰り返されていく。
悪を犯す大人も子どものころに悪を受けて育ってきた可能性が高く、そう考えると誰が本当に悪いのかは分からないけれど、子どもを守っていく大人として、大人がまず悪を罪と認めることが社会的に責任のあるあり方ではないかと強く思った。

果たして、悪が生んだ悪も悪と呼ぶのか。

春が殺害現場の河川敷に1人佇み、中学生のころを回想している場面は泣けた。表情もとてもうまかったから、余計に泣けた。
それにしても高良健吾かっけえなあ。
居場所が家と家庭になかった春にとっては、サッカー部のあの4人が居場所で救いで大切で守りたかったんだろうなと思うけれど、大人になった今、自身を守るために朔は春をも殺そうとしていたかもしれないという悲しすぎる結末。
その裏切りの切なさと自身の居場所へと思いを馳せる春の表情に、彼の優しさも含めて泣けた。
大人になってからの春のあり方をみても思ったけれど、本当に仲間想いだなあと感じた。

今作は子ども時代と大人時代が描かれているため、どの人物とどの人物が同一人物かを常に考えながら観なければならず、それが少し大変だった。
また、おそらく犯人である朔だが、春と晃の家庭については少しだが描写されていたのに、朔についてはほとんどされていなかったのが残念だった。親と子の関わりをみたかった。そこの背景があれば、もっと心を揺さぶられたかもしれない。
さらには、朔もこの町の犠牲者と春が言ったり、佐藤さんなどがこの町から居場所がなくなっていくと言ったり、この町の問題についても掬い上げようとしている感じはあったけれど、自分にはそこの深さがあまりピンとこなかった。町としてのあり方の問題などをもう少し丁寧に描写してほしかった。

それでもおもしろいテーマを扱っていて思考を巡らせながら観られたし鑑賞後も色々と考えられたので、とても楽しかった。
あおは

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