ニャーすけ

ニューヨーク・オールド・アパートメントのニャーすけのネタバレレビュー・内容・結末

1.1

このレビューはネタバレを含みます

久々の予告編詐欺。今年観た新作では『ボーはおそれている』の次に酷い。

まず、基本的な演出が時代錯誤で古臭い。
主人公であるペルー系移民の兄弟は、自らを「透明人間」と皮肉っぽく呼称している。それは先日のアカデミー賞を見てもわかるとおり、今なお欧米において有色人種の存在が軽視されていることの反映で、このテーマ設定自体はとても良いのだけど、映画冒頭、デリバリーのバイト中、車と衝突事故を起こした兄弟に対し、ドライバーの白人女が「私の車に傷がついたでしょ!」と叫ぶのだが……いや、ド田舎ならまだしも、人混みの激しいニューヨークでそんなこと言う奴いるか? 今の時代、その女のほうがSNSに晒されて炎上するぞ? この演出が通用するのは、せいぜい2, 30年前の映画までだろう。
ヒロインのクリスティンにしても、演じるタラ・サラーという子はちょっとマーゴット・ロビー似で魅力的だけど、「惚れた男のために売春をし、穢れてしまった自分と対極の存在である純粋な主人公たちに安らぎを見出していく」という人物造形が手垢に塗れていてダサい。それこそロビー扮するハーレイ・クインという性的にも奔放なフェミニズム・アイコンと比べると、本作の女性観は風俗嬢に説教する風俗の客みたいな昭和おやじ感=老害感がある。

本作は2/3を過ぎた辺りから衝撃的な展開を見せ、ほとんど映画のジャンルすら変わってしまう。個人的に、このような大胆な作劇はかなり好きな部類で、特に『君が生きた証』などは本当に素晴らしい傑作だと思うが、本作は現実味の無い描写と薄っぺらな登場人物のせいでそれがまったく機能しておらず、ただ単にちぐはぐなだけで下手糞な脚本にしか思えない。
確かに、異国の地で懸命に生きる外国人の若者たちと、強制送還により引き裂かれる不法移民の家族とは地続きの問題ではある。ただ、前述のクリスティンが脚本のツイストのためだけの行動を勝手に起こしてあっさり退場し、その後は主人公たちにもほとんど顧みられないため、このふたつの要素が相互的に絡み合うことが無いのだ。マジで全然関係ない2本のシナリオ(しかもそれぞれ出来が悪い)を、無理やり帳尻だけ合わせたような稚拙さ。「多様性」を言い訳にする駄作ほどたちが悪いものは無い。
ニャーすけ

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