KnightsofOdessa

Stone Wedding(英題)のKnightsofOdessaのレビュー・感想・評価

Stone Wedding(英題)(1973年製作の映画)
5.0
[白色の"死"と黒色の"希望"] 100点

人生ベスト。ダン・ピツァ(Dan Pița)&ミルチャ・ヴェロイユ(Mircea Veroiu)コンビの長編一作目。ルーマニア映画史に燦然と輝く大傑作。Ion Agarbiceanu による二つの短編を基にした二篇のオムニバス映画。小説の映画化はチャウシェスク時代における一種の自衛策だったらしい。第一部"フェフェラガ"は、採石場で働く老母と家に一人残った病弱な末娘の寡黙な物語である。老母は同じく寡黙で疲れ果てた白馬と共に採石場で石を集めて工場まで運ぶ作業をしており、病弱な娘のために必死に日銭を稼いでいる。それ以外の活動、主に生活上の喜びや人間関係、そして人生に至るまで、老母は諦めたかのようにトボトボと歩く背中が観ていて苦しい。同様に、母親より幾分大柄な末娘も、ブランコを力なく漕いだり、数少ない人形を乳母車に入れて遊んだりしているが、そこに若さゆえのパワーなど微塵もなく、ただただ物静かに孤独に死の隣に座ってる。白馬を含め、モノクロで強調される壁や石の白さは、未婚のまま亡くなる末娘に着せる花嫁衣装へと直結していて、それが本来表す純潔さを象徴すると共に、珍しく"死"の影を纏っている。

第二部"結婚式にて"では、結婚式に招かれた音楽家と彼が助けたお尋ね者を中心に、伝統的なルーマニアの婚礼風景が描かれている。新郎新婦は街の中を練り歩き、住民が家の外に出した椅子に置いてある帽子の中に小銭を投げ入れる。住民たちはなぜか試練のように新郎新婦の前に立ちはだかり、一言申してから彼らに道を譲って、自らも二人を追う隊列に加わる。祝い事とも思えないほど厳かに進行するこれらの行進は、音楽家と出会うことになる披露宴会場で一段落し、新婦の全く楽しんでいない結婚式も第二部へと突入する。建物などの横方向への広がりを意識した画面は、ここでも横一列に並んで食事する一行を映し出すが、結婚披露宴なのに新郎の目の前に柱があって、それが顔を覆い隠しているというありえない画面設計がなされていて驚く。しかし、これも結婚に納得のいってない新婦の心象風景の一つであり、彼女の目はしっかり音楽家へと向けられているのだ。こんな視線と存在の消し方があるのか!闇に紛れて逃げ出す新婦と音楽家は、"白"に"死"が見えた前パートとは対称的に、"黒"にある種の"希望"が宿っているのが面白いところ。

双方に共通するのは、双方の運命がフォークロア的に語られることだ。ある種の神話的悲劇性を感じる物語にマッチしていて、非常に心地良いが、心はズタボロ。
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