イージーライター

あまろっくのイージーライターのレビュー・感想・評価

あまろっく(2024年製作の映画)
4.0
講釈師見て来たような嘘を言う。

講談師が語ることは嘘ばかり。それでも耳を傾けさせるだけの力があるのは、語り口調の滑らかさと、語る言葉の真実味があるからである。

そもそも嘘なのだから、語る言葉もそれぞれは嘘で出来ている筈なのだが、真実味を感じさせるのは、一つ一つの出来事のディテールを細やかに本当で固めるからである。いわば委細を真実にすれば大きな嘘を信用させることができる。

この「あまろっく」、話の大筋としては、エリートだが結婚適齢期を微妙に過ごした娘が理不尽なリストラに会い、故郷の尼崎に戻って来る。尼崎の自宅では、最愛の妻の病死で失った初老の父が娘の不如意な凱旋を笑顔で出迎える。その二人の生活は、すぐ、父の再婚で三人の生活が始まる。ただ、その後妻は二十歳。娘より遥かに年下だった。

初老の父は笑福亭鶴瓶、娘は江口のりこ、後妻は中条あゆみが演じる。

なぜ、中条あゆみが笑福亭鶴瓶に恋して結婚まで。大嘘にも程があるわけだが、映画は委細を丁寧に描く。ああ、こういう人ならば、こういう若い女性ならば、互いに愛してしまうかもしれない。ああ、この尼崎ならば家族として愛情を育みたくもなるかもしれない。

見ているうちに、大嘘が真へと化するのである。

シナリオの妙かもしれないが、カメラもうまい。港湾工業都市たる尼崎は、海の色は鉛色、家々の壁は煤けた茶色だったりするものだが、人の営みの生活の場を花や海上にボートを浮かべることで、目に彩りを添える。また、心が高まって嗚咽するその瞬間、登場人物の頭の上の鉄橋に、電車が駆け抜ける。その絵面の動きのいいこと。

いい映画には、いい絵がいくつもある。