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シャロウ・グレイブのはたのレビュー・感想・評価

シャロウ・グレイブ(1994年製作の映画)
3.5
欲望と暴力、そして若者。「シャロウ・グレイブ」にはダニーボイルを構成する要素のすべてが内包されている。

アレックス、デヴィッド、ジュリエットはエディンバラでルームシェアをしている三人組。ある日、ルームシェア仲間に引き入れたヒューゴが自室で亡くなっている姿を目撃した。残されていたのは手つかずの大金。略奪するべきか・・・。というのがこの映画のあらすじ。略奪を最初に提案するアレックスは典型的な若者で、その他のキャラクターとのなれ合いからもあまりいい印象を感じさせないヤンチャな男だ。ジュリエットもアレックス同様短絡的な思考で大金の略奪を考えたキャラクター。大金を奪取して以降はアレックスとともに遊び惚ける。その代わり、デヴィッドは今後のダニーボイル作品でも見て取れる個性を力強く発揮している。

デヴィッドはアレックスやジュリエットとふざけることはあれど、会計士という仕事をしていることもあり、基本的には真面目な性格。しかし、仕事は単調で同僚は生気を失ったような人物ばかり。退屈そうな表情をしていたデヴィッドは幻覚で映り込んだジュリエットに「(略奪を)やろう」と語り掛ける。現状を乗り越えようと大きな行動を起こす気質は「トレインスポッティング」のレントンや「スティーブ・ジョブス」のジョブス等ほとんどのダニーボイル作品に受け継がれている。

そして、大金の主導権を得たデヴィッドはアレックスやジュリエット以上に危険な人物へと変わっていく。「地獄の黙示録」が好きだと語っているダニーボイルは何かにとりつかれた結果、狂気に陥っていくキャラクターを数多く描いている。つまり、デヴィッドはダニーボイルの映画の主人公とヴィランの傾向を両方持っている特異なキャラクターなのである。

後半では、友人たちの変化におびえるアレックスを主人公についに友情関係が崩壊していく。しかも残忍な暴力を伴って。アレックスを演じているのがユアンマクレガーということもあり、後半全体が「トレインスポッティング」の準備体操に見えてくる。デビュー作には監督のすべての特徴が浮かび出ると言われているが、この映画にはダニーボイルの無軌道な若者の姿や強烈な残酷描写、そして現状を塗り替えたいというエナジーの3つがあふれている。ファンの自分としては多少の欠点も目をつぶれるくらいのいい出来だ。
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