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カンダハールのnetfilmsのレビュー・感想・評価

カンダハール(2001年製作の映画)
3.9
 アフガニスタンからカナダに亡命した女性ジャーナリストのナファス(ニルファー・パズィラ)は、ある日、地雷で片足を失ったため祖国に残した妹から、20世紀最後の皆既日食の前に自殺するつもりだという絶望の手紙を受け取った。日食まであと3日、ナファスはカンダハールの街に住む妹を救うため、イランからアフガニスタンの国境を越える。彼女はイラン国境のアフガン難民で神学校を放校された少年ハク(サドュー・ティモリー)、ソ連と戦うためにアフガンに来ながらも今は住民の診療を続けるブラック・ムスリムのアメリカ人サヒブ(ハッサン・タンタイ)らと交流しつつ旅を続け、タリバンの教育、女性差別に飢餓と貧困、地雷問題など、アフガニスタンの厳しい現実を目の当たりにしていく。冒頭の空撮シーンに目を奪われる。一面砂が拡がるアフガニスタンの国境沿いには丘陵な砂地が幾重にも連なる。地上には片足あるいは両足を失った人たちが松葉杖を掲げてヘリに向かい、何やらアピールしている。この描写が後半部分の伏線として重要な意味を持って来る。

 主人公であるナファスは妹の自死するという報せを受け、妹に自死を思い留まらせようと、亡命したカナダからアフガンへと向かう。アフガニスタンの国境を越えるパスポートが取れず、かの地へ向かうには徒歩で砂漠地帯を越えるしかないのだが、ナファスの意思は固い。最初はイラン人の第四の妻を装い、アフガニスタンの国境へ向かうもイラン人一家は身の危険を感じ、イランへと逃げ帰る。アフガニスタンにおいては、イランのチャドルよりも厳格なブルカという衣装を身に纏っている。女性たちは夫以外の男性に肌を見せることを許されないため、ブルカのような完全武装の衣服をつけることを課されているのである。まるで日本の虚無僧のような異様な風貌が目に焼き付いて離れない。それ以上に異様なのが、患者が医者にも直接かかれないことである。彼女たちは自分の子供や身近な男性を介してしか、男性医師と会話することを許されない。仕切りのように張られた真っ黒な布から、かろうじて目や口や耳が見えるくらいの穴が開いており、そこから医者は病気を判断するのである。この異様さに思わず息を呑む。

 中盤に出てきた赤十字の義足引換所で起こるやりとりのシリアスな現実は遠く離れた先進国に住む我々にとって、真にセンセーショナルな場面となる。1年がかりで作ってもらった義足が金儲けのためだけにに彼らを騙す者の手に渡り、本当に必要な人の手には届かないという皮肉な状況をマフバルバフはセミ・ドキュメンタリー形式で描写する。クライマックスの花嫁を祝う隊列のブルカが異様な雰囲気を伝える。拘束されれば間違いなく射殺される緊迫の場面で、果たして彼女は無事脱出出来たのか否か?いずれにせよ、彼女がカンダハールに入るまでは、今後も幾多の困難が予想される。現在もアフガニスタンから隣国イランには、毎年多くの難民が政情不安のため亡命している。ヨーロッパに流入するシリアからの難民の問題も、根っこの部分はほぼ同じである。彼らは国に絶望し、生きるために海を渡り、無情にもその船の水難で命を落とす。あのむごたらしい現実は今作から14年を経てもまるで変わらない。そのことに対し、もはや我々も無関心ではいられない。
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