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箱男のCHEBUNBUNのレビュー・感想・評価

箱男(2024年製作の映画)
3.2
【箱男を意識する者は箱男になる】
2024/8/23(金)より安部公房の同名小説を映画化した『箱男』が公開となる。試写にて一足早く鑑賞したので感想を書いていく。

安部公房の「箱男」は、段ボールで作った箱に入り意図的に視野を狭くし匿名なる存在として生きることで自由を獲得しようとする者が「箱男」というアイデンティティの中で思索を巡らす内に本物/偽物、現実/虚構の狭間で足掻くことになる内容だ。2020年代の世界で考えれば、インターネットのメタファーとして「箱男」は応用でき、陰謀論に染まる者の話としてアップデートできそうなのだが、石井岳龍監督はそこへ転がることなく正面から安部公房の言葉を映像言語に翻訳していく。それもATGのタッチで。

庭に存在していた箱男をエアガンで射殺。残された段ボールに身を投じたことから箱男として生きることとなる。街中に潜伏し、女の足を凝視。思索をノートに書き留める箱男は、襲撃者から逃げまどいながら生を全うする。その過程で病院にたどり着き、そこに蠢く陰謀と対峙。それにより実存の危機に瀕していく。

映画は「箱男を意識する者は箱男になる」といったフレーズを反復する。これがやがて思索、創作における他者と自己との関係性の物語であることを導く鍵となる。

映像化されて気づいたのだが、本作はデヴィッド・クローネンバーグが「裸のランチ」を映画化したのに近いものといえるだろう。『裸のランチ』では目にしたものをタイプライターで書き留めていくことでスパイである自己を保っている。しかし、虚の世界にいる中で執筆したとしてもそこでの自己は外側からは虚でしかない。「箱男」も同様に社会から自由にいようとするも、箱男であることに縛られ不自由となっている世界が描かれており、果てしない虚の中から自己を掘り出そうとする物語となっているのだ。

これは是非とも原作を読んでから観ることをオススメしたい。
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