まぬままおま

季節のはざまで デジタルリマスター版のまぬままおまのレビュー・感想・評価

4.0
ダニエル・シュミット監督作品。

「本作は、シュミット自身の少年時代の記憶を基に、祖父母が経営していたホテルを基に脚本を執筆」(https://schmidfilms.jp/ )とのこと。

過去に干渉しないと本作の主人公であり中年のヴァランタンは言っているのに、アニーの呼び声によって、幼少期を過ごした古ホテルを訪れかつての記憶を思い出していく。

ヴァランタンは子どもの頃を回想する。そのはずなのに今も昔も存在しているホテルが過去と現在の双方に干渉し、境が溶けていく。その描写はとてもおしゃれである。まさに上品なシュミットの画だ。

以下、ネタバレを含みます。

干渉の仕方が面白い。というか様々な仕方がされているのが興味深い。

まずは鏡。それはヴァランタンが始めにアニーに会う描写からも確認できる。本作が過去と現在が織り交ぜられる物語であることは事前に知っていたので、それを行うための鍵は鏡であり、過去と現在は鏡像関係として描かれるのだと推測した。

だが過去と現在は、カードマジックによる表裏関係、エレベータに中間に位置する上下関係、「山と海」による「現実と虚構」の関係としても描かれることに驚いた。このことは一貫性がないと言うことはできる。しかし、だからこそ彼が過去に干渉する仕方は、ただホテルにいて、歩いて散策すればそれで十分なのだ。そして現実の問題に対処することを欠いた脱目的的だしーそもそもそんな問題はないー、非時系列で縦横無尽にイメージとして現前される。そのイメージたちは彼にとって最も印象深い出来事だろうから、私たちはリテラルにみてるだけで楽しめる。

子どもの頃にステュデール夫人を目撃したのは、大きな衝撃だったのだろう。世界一の美女とされる彼女。演じるのはエリック・ロメールの『海辺のポーリーヌ』や『木と市長と文化会館』に出演したアリエル・ドンバール。私も大きく目を見開いたし、彼女の逢い引きの様子や、鍵穴から裸体を窃視してしまったことは一生涯忘れられないことだろう。

友達と一緒に大きな家具に股間を当てて快感を得ようとしている描写など、上品さの欠片もないシーンも印象深い本作。しかし私たちが想像/創造力を働かせれば、山の古ホテルであっても部屋の窓から海を眺めることができる。そんな映画の醍醐味を悠然と提示するのだからやはり素晴らしい。