いずむ

エイリアン:ロムルスのいずむのレビュー・感想・評価

エイリアン:ロムルス(2024年製作の映画)
5.0
フ○ッキングレート!とリドリー・スコット御大がコメントした通りのとてつもない神映画だった。近年のプロメテウス、コヴェナントは人類の起源を巡るがゆえに所詮人間はこんなもんという「性悪説」が基盤にあったように思うが、今回のロムルスでは「性善説」を燃料にしているように見えた。いわゆる志村うしろうしろー的な人間を小馬鹿にしたお約束描写は少ないし、襲われてスッキリするような悪人も出てこない。記事によれば、チェストバスターの生まれ方(体内から突き破ってくる)をキャストには知らせずリアルな反応を撮影したそうだ。30年来のエイリアンウォッチャーである我々からすれば登場人物の無知さが滑稽に映ってしまうものだが、それをリアルと本気の描写で乗り越えようとする気概は力強い性善説だ。

シリーズの位置付けとして『1.5』と聞いていたので『エイリアン4』を思い出すアイツの登場には心躍った。その辺の男に身籠らされた母の純粋な母性を打ち砕き、得体の知れない何かが産まれる背徳感、これぞエイリアンの醍醐味。ブレードランナーのような街並み、スターウォーズのような夕陽、ターミネーターのようなアンドロイドとの感情表現といったエイリアンと密接な関係にある数多の名作たちに礼を示す姿勢も取りつつ、しっかりと自らのドントブリーズを盛り込みアップデートしてみせる手腕はお見事。これまで何度も見たフェイスハガーに襲われる場面やゼノモーフの酸性血液も真っ直ぐなスピード感と一工夫の無重力展開によって鮮やかに生まれ変わった。

「人間は極限状態において目的を優先できない」このシチュエーションの作り方が非常に上手く、登場人物の行動に性善説で以て観客を引きずり込み、無惨に感情を引き裂くことでドラマを紡ぐ、これぞまさに『エイリアン』を描く正しい論法なのだと思い知らされた。小さい頃に木曜洋画劇場でエイリアンを目撃していた少年時代の自分にそのまま映画を好きでいれば物凄い映画が見られるぞと、そっと伝えたい。
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