回想シーンでご飯3杯いける

グレート・スクープの回想シーンでご飯3杯いけるのレビュー・感想・評価

グレート・スクープ(2024年製作の映画)
3.7
児童への性的暴行などの容疑で逮捕・有罪となったアメリカの実業家、ジェフリー・エプスタインとの交友関係から発覚した、イギリスのアンドルー王子による性的虐待問題を描いている。

何と言ってもポイントなのは、事件そのものではなく、王子へのインタビューを実現したBBCのスタッフをメインに描いている事。同じ性犯罪者であるハーヴェイ・ワインスタインを題材にした映画「SHE SAID」も新聞記者を中心に描いていたし、先日レビューした「赤い闇 スターリンの冷たい大地で」もフリーのジャーナリストを軸に描いていた。本作も正に同じ手法である、

事件や犯罪者を中心に映画化すると、その作品自体がゴシップ化してしまうというジレンマが生じる。映画という表現を使うのであれば、罪を暴く事よりも、それを報じたジャーナリストを軸にして、報道の自由や知る権利を描く方が、再発防止に向けた有効な手法になるという発想。権力の暴走の多くは、メディアの沈黙を背景に巨大化していくのである。

カトリック司祭による性的虐待事件を追うジャーナリストを描いた2015年の映画「スポットライト 世紀のスクープ」辺りから顕著になった、実話ベース作品の新しいアプローチである。日本では藤井道人が手掛けた「新聞記者」が同じ手法を取り入れたが、そこに続く流れはまだ生れていないように思う。日本では今も加害者を絶対悪として叩く作品、あるいは真逆で被害者の感情をベースにした作品の人気が根強い。

BBCのプロデューサーが語った言葉「権力者に責任を問い、被害者に声を上げさせる」は、とても強いメッセージを持つ。報道自由度後進国の日本がこれを実現するのはいつの事になるのだろう。