ミラーズ

土砂降りのミラーズのレビュー・感想・評価

土砂降り(1957年製作の映画)
5.0
『中村登監督の再評価のきっかけになった一本で、物語や演出は元より舞台設定なども見所あり』

東京フィルメックスの時に作成された英語字幕入りプリントで、画質は悪くない。

浅草付近の下町(南千住付近の労働者街と思われる)にある連れ込み旅館家族の家庭事情がメロドラマとして描かれる。

ネタバレあり



家出した長女が元恋人と出戻りしてからタイトルどおりの土砂降りの一夜で起こる悲劇は、岡田茉莉子の演技と陰影を強調した撮影でギリギリの部分を見せずに演出する部分も見事だが、発端になった手紙の部分を曖昧にする提示する脚本も巧く効いている

旅館の前にある広大な線路には、常に機関車が黒い煙吐きながら往来している景観と近くの長い陸橋を渡る家族の姿を度々見せるカットも暗示的で、橋向こうと界層的な断絶も感じて舞台としてロケされているのも効果的で、視覚として飽きない(常磐線の貨物駅があの付近にあったと鉄分多めの友人に言われたことがある)

旅館での事件のあとに残された家族が重要な決断をする場面は、若干補足的で役者の見せ場もあるが、それまでのキレからするとやや長く蛇足感も少し感じる。

役者陣は、皆さん見せ場があり個人的には、田浦正巳の飄々と長男が面白く、妹との関係もちょっとブラコンが入っているのも興味深い。しかし桑野みゆきとの兄妹だと同じ中村登監督の『恋人』での大泉晃とダブる(兄貴役も雰囲気がそっくり)
余談ですが、主役の姉弟妹の三人の名前が松竹梅もじりなのが、一郎ニ郎三郎並に当時の雑さを感じさせて可笑しい

余談
サミュエル・フラー監督が日本で本格的にロケーションをした犯罪映画の傑作『東京暗黒街・竹の家』のクライマックスに出てくる浅草松屋の屋上にある遊具スカイクルーザーが、チラッとビアホール(多分現在もあるアサヒのビアホール)帰りに川沿いを、歩く佐田啓二と岡田茉莉子が歩く川沿いに遠景に見えるのが嬉しい。

90年代の犯罪映画の傑作でもある『L.A.コンフィデンシャル』の監督カーティス・ハンソンが来日した時に、インタビューした川本三郎さんのコラムによると、カーティス・ハンソン監督もフラー監督の『東京暗黒街・竹の家』に影響を受けていて、浅草のスカイクルーザーを見に行きたいと言っていたそうです。(スカイクルーザーは76年まで映画やドラマの映像に確認されていたそうですがその後に解体されたらしい)