ミラーズ

アリスとテレスのまぼろし工場のミラーズのレビュー・感想・評価

5.0
『監禁された街と少女を中心にした青春と成長を美しく映像で綴る良編』

エグ味が癖になるアニメ脚本で、注文している脚本家岡田麿里の二作目の監督作品

前作である初のアニメ監督作品『さよならの朝に約束の花をかざろう』のような壮大な設定や物語のスケールや時間軸は、なくミニマムな青春群像になっているが、おそらく岡田麿里自身が青春期を過ごしたであろう時間軸の1991年以降に設定してる点も興味深い。


ネタバレあり!


謎の事故で全てが、閉じた街での物語がメインで、「あの花」などの秩父三部作にあった要素と近年に多く作られているマルチ(メタも)バースを加え、エグ味としての神隠し=児童監禁(新潟の児童監禁事件もこの頃に発生)を連想させるので、嫌悪を持たれる要素も強いが、淀みない展開と隙のない高密度の映像は一見の価値あり!

1990年前半の日本といえば、バブル経済が崩壊して低成長と斜陽経済に入り始め現在に至る状態になるが、まだ地方都市の衰退は緩やかで、地盤産業の工場が稼働して活気がある劇中から本当の時間軸でもある2005年以降の閑散した商店街が、当たり前になる地方の街の対比を見せられると、今(過去)の時代に残りたいと思う人々の気持ちも理解できる。

岡田麿里さんなどの専業脚本家が、映画を作ると、やや説明的な台詞などが多くなる傾向があり、前作でも見られるが、今作ではかなり抑え目になっている。(前作の場合は、膨大な設定の説明に加えて心情吐露もわかり易く多め)

もっとも前作は、もしかするとテレビシリーズの予定だったのを映画にした印象で、演出やコンテもかなり多数の人が手掛けいたが、本作では減っている様子で、作画は元より映像密度と演出も的確で見ていて気持ちがいい。背景美術や冬の雪景色と夏の雨が交差するドライブインでの描写も素晴らしい。正直この場面の繊細な映像を見るだけでも満足だった。

主演声優の榎木淳弥と上田麗奈やクラスメイトの声優陣も皆さん適格な演技を提示しており、オーバーになりがち部分も抑制されていると思う。
政宗の父親と叔父を担当した俳優陣も良かった。

残念なのは、若干お客さんの入りが悪いようで興行的に厳しそうではあるが、監禁された街と少女を中心にした青春と成長を美しく映像で綴る良編としてオススメしたい。

余談
1991年辺りが舞台なので、車やバイクなどの小道具チョイスも的確で、テレビはブラウン管で、叔父の大事にしてるバイクがカワサキの名車ZZR1100のC型だったり、日産のパオとスバル・ドミンゴなどの珍しい車のカーチェイスが見られるのもいい😊