ミラーズ

簪(かんざし)のミラーズのレビュー・感想・評価

簪(かんざし)(1941年製作の映画)
5.0
「一夏の思い出と戦争の影」

巨匠清水宏監督作品で、1941年の太平洋戦争前に作られた日本ヴァカンス映画の原点とも言えるコンパクトな傑作。

山梨県の下部温泉が舞台で、そこに東京から集まったと思われる様々な家族や保養客達の共同体としての交流が、一夏の生活として活写される。

笠智衆は、温泉で入浴中に田中絹代が落とした簪で足を怪我する元兵隊役で、それがきっかけで違いにほのかな想いを持つのも定番だけどグッと来る(怪我の感じだと大怪我にも見えるけど)

部屋の間取りや移動するカメラの大胆さも見事で、古い作品とは思えない趣向がある。

驚くほど若い笠智衆や可愛らしい田中絹代に絡む傍や子役も印象で、既に日中戦争に突入しているので、食事の献立などで物資の不足がさらりと描かれる。(この辺は当時の肌感覚的)

最後に登場人物で、学者以外素性は分からないが、多くの人が東京に帰った後に一人残った田中絹代が、思い出を名残り惜む様に彷徨う場面が、切ないが近年の作品ほど感傷的ではなくキレのあるカットで湿っぽくならないのも良い。
(この後に多くの人が戦争に巻き込まれると思うと更になんとも言えない気持ちになる)