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土砂降りのakrutmのレビュー・感想・評価

土砂降り(1957年製作の映画)
4.7
連れ込み旅館を営む妾一家の子供たちがその環境に苦しみながら生きる姿を、婚約を破棄されて堕ちていく長女を中心に描いた、中村登監督のドラマ映画。北条秀司の同名戯曲が原作。中村登監督の生誕100年を記念して、『夜の片鱗』とともに2014年ベルリン国際映画祭などで上映された。

『夜の片鱗』も素晴らしい映画だったが、本作はそれ以上の秀作である。まずは、映画の世界に没入させるストーリーテリングが素晴らしい。中心となるのは、岡田茉莉子が演じる長女の松子。母が妾であることや実家が連れ込み旅館であることを隠しながら会社の同僚男性と婚約するが、婚約相手の母親が彼女の秘密を知ってしまい、結婚は破談となり、男性は他の女性と結婚してしまう。その後の二人の物語がメロドラマ風に進んでいくが、そこで見せる松子がみせる執念は、女性は男性の庇護下にあるというその時代の女性観へのアンチテーゼとなっている。そして、そういう女性を演じる岡田茉莉子の演技はさすがである。映画の最初のほうでは、芯が強い(気が強い)女性を演じることが多い岡田茉莉子にしては珍しく純情な女性を演じていたが、婚約破棄されてからの彼女はまさに本領発揮。本当にこういう女性を演じるのが上手い。彼女の代表作となるべき作品だと、個人的には強く思う。

それとともに、デビュー間もない桑野みゆきが演じる次女も見逃せない。前半では脇役でしかないが、後半では結末に向けて重要な役割を果たすことになる。それにしても、長女と次女が使っている部屋を客に使わせるなんて、凄すぎる。旅館の女将である母親を演じる沢村貞子も適役であろう。ラストのほうでみせる彼女の演技も見どころ。これらの三人の女性を通して、女性も自立すべきであるというメッセージがひしひしと伝わってくる。

ストーリーだけではなく、映像としての魅力もある。夜のシーンでの陰影の使い方がとても上手く、それによって女性たちの心情が効果的に表現されている。例えば、点滅する旅館のネオンが暗い部屋の中を照らすシーンは、松子の心情を象徴する装置になっている。

本作のテーマが、当時もまだ残っていた妾文化への批判であるとする解説がある。確かに子供たちは母親が妾である(=父親が一緒に暮らしていない)という出自に苦しむ。しかし、妾の子というだけであれば、本作のような物語は成立しにくい(=物語として弱い)ような気もする。本作では、それに加えて連れ込み旅館を経営しているという設定によって、子供たちが二重苦になっている点が重要である。妾だからこそ利益率の高い連れ込み旅館を経営しているという側面はあるだろうが、この二重苦によって本作は成功していることを考えると、妾文化への批判というのはちょっと言い過ぎのようにも思える。妾が悪いのではなく、旧態然とした女性観・家族観が悪いのであり、本作はそのような社会観へのアンチテーゼなのである。
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