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幕末太陽傳のnetfilmsのレビュー・感想・評価

幕末太陽傳(1957年製作の映画)
4.3
 幕末の世の中、現在の京急本線・北品川駅周辺を舞台にしたという加藤武の軽快なナレーション、異国人の鞍から落ちた懐中時計。居残り佐平次(フランキー堺)は品川宿の遊女屋「相模屋」に登楼する。仲間連中と繰り広げる飲めや歌えやのどんちゃん騒ぎ、若衆喜助(岡田真澄)は客の懐を気にするも、佐平次は粋狂な様子ではぐらかす。案の定、散々遊んでも懐はすっからかん。怒った「相模屋」の主人の伝兵衛(金子信雄)は佐平次を行燈部屋に追払う。蜘蛛の巣だらけの埃っぽい部屋で、佐平次は咳き込む。だがいつの間にやら玄関へ飛び出し、番頭や若衆に先んじて雑用を始めるが、持ち前の要領の良さですぐに気に入られる存在になる。一方その頃、売れっ妓女郎こはる(南田洋子)に入れ上げた攘夷の志士・高杉晋作(石原裕次郎)は、仲間の志道聞多(二谷英明)や久坂玄瑞(小林旭)、伊藤春輔(関弘美)と共に御殿山英国公使館の焼打ちを謀っていた。あくまで軽快にことの次第を見つめる佐平次は女郎屋の様々な無理難題を解決しながら、一晩の豪遊の借金を少しずつ返していた。

 落語『居残り佐平次』から主人公を拝借し、『品川心中』『三枚起請』『お見立て』などの挿話を随所に散りばめた物語は、知性と愛嬌に長けた佐平次が人心を掌握し、時にトンチの効いた機転を見せる。逆に奉公人仲間や遊女から重宝がられて頼まれ事を解決したり、はたまた詐欺まがいの処世術で蓄財するのであった。佐平次は、どんなピンチの場面でも状況を自分の有利にさせて、切り抜けるのだが、彼の処世術に今作の旨味がある。彼に惚れる2人のNo.1遊女役に南田洋子と左幸子、高杉晋作役に当時、太陽族映画で絶大な人気を博した石原裕次郎をあえて脇で起用し、「日活製作再開三周年記念」らしい豪華な配役で魅せる。その絢爛豪華な人間ドラマと矢継ぎ早に繰り返されるエピソード、女郎のライバル同士の対立、客同士の親子喧嘩、気の弱い男(小沢昭二)とおそめ(左幸子)の心中未遂、伝兵衛とその妻お辰(山岡久乃)の間に生まれた放蕩息子の徳三郎(梅野泰靖)と女中おひさ(芦川いづみ)の密かなロマンス。その渦中に佐平次はあえて首を突っ込みながら、自ら道化師役を買って出る。

 そんな素っ頓狂な活躍ぶりを見せる佐平次が見せる病巣、一見陽気な彼が見せる結核の病に怯える裏の顔こそが、フランキー堺扮する佐平次を一味も二味も深みのあるキャラクターにしている。地獄も極楽もあるもんかと叫ぶ佐平次の姿は、「さよならだけが人生だ」と常々話していた監督・川島雄三とダブる。その余韻が何度観ても素晴らしい傑作である。
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