ひろぱげ

憐れみの3章のひろぱげのレビュー・感想・評価

憐れみの3章(2024年製作の映画)
4.4
ギリシャ出身の奇才ヨルゴス・ランティモスの最新作は3話のオムニバスで、3人の役者(ジェシー・プレモンス、エマ・ストーン、ウィレム・デフォー)が異なる3つの物語に毎回登場し、別々の主要な役をそれぞれ演じるという面白い構造になっている。そして各話のタイトルにある「R.M.F」とは一体何?誰?
(パンフレットに書いてあったギリシャ悲劇の専門家の解説によると、古代ギリシャでは3本1セットの芝居をひと続きに上演していたそうで、3人の役者がそれぞれ別の役柄で3話を演じ、さらに「黙り役」という何も言葉を発しない4人目の人物が居たとのことで、これはそのまま本作の作りと重なる。へえ〜!)

第1話は、仕事も私生活も飲食物やパートナーの選択も全てある人物に支配されている男の物語。(マッケンローのラケットはどうしても取り戻したかったらしい)
第2話は、船の遭難事故から生還した妻が、出発前とはまるで別人に入れ替わったかのように思えて仕方なくなる男の物語。(「見ようよ」言ってたビデオが「それかい!」と思わずツッコミたくなった)
第3話は、カルト教団の教えと支配に忠実に生きてきたが女がうっかり破門されるも必死にしがみつこうとする物語。(車の運転荒すぎw)

この監督らしい「意地悪さ」が満載で、どれも一見普通の日常生活の中に頻繁に現れる異常さと可笑しさを巧みな脚本とストーリーテリングでシームレスに描いている。どのエピソードも、男女の関係、支配・被支配の生殺与奪の関係、食と飲み物、セックス、動物、死からの生還、みたいな共通点があり、時には嫌悪感すら抱きかねない描写もあるんだけど、不思議なユーモアと上品さによって、意外と後味は悪くない。その点では、ランティモスの出世作である「籠の中の乙女」に通じるものがあった。(共同脚本が、「籠の中の乙女」「ロブスター」「聖なる鹿殺し」でタッグを組んだエフティミス・フィリップに戻ったのも大きいのかも。「女王陛下のお気に入り」と「哀れなるものたち」はトニー・マクナマラだったからね。ちょっと毛色が元に戻った。)

今回はランティモス映画にお決まりの「変なダンス」は無いのかな?とちょっぴり残念に思ってたら3話目の終盤にちゃんと入れてて、やっぱり「変なダンス」は外せないんだとちょっと安心。

それと、「哀れなるものたち」に続き音楽を担当したジャースキン・フェンドリックスのスコアは今回も見事で、ピアノのシンプルで不穏な音と、合唱による悪魔的かつ崇高な音楽がめっちゃ効果的。
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