トムヤムクン

狼の血族のトムヤムクンのレビュー・感想・評価

狼の血族(1984年製作の映画)
5.0
緑の爽やかな郊外と思しき一軒家。車から降りてきた夫婦に快活な姉が走り寄ってくる。どうやら妹が困りもので部屋から出てこないらしい。姉は騒がしく家の中を走り回り妹を部屋から出そうとする。しかしこの冒頭のシーンのカメラワークでとても興味深いのは、一家の飼うハウンド犬の目線に合わせるかのようなローアングルで走り回るかのような映像だ。ベットでモゾモゾと動き回る妹。エロティックに赤く塗られた唇。枕元には恐ろしげな表紙のマンガが置いてある。物語は、寝る前に読んだこのゴシックホラー漫画に影響されたであろう妹の中世的な想像力に突き動かされ、やがて悪夢が現実を侵食するような展開へ…。

動物たちが動き回り埃っぽく匂い立ちそうな中世農村社会のイメージを見事に演出しつつ、ところどころに高級車やスーツ姿のジェントルマン、さらにオオカミへの変身を促すクスリなどの現代的、科学的なモチーフが散りばめられているのが面白い。

主人公の少女ロザリーンの性の目覚め=少女と大人の女の境界での不安定さにスポットを当てる。しかしベースとなっている『赤ずきん』においては少女を拐かすオオカミを殺して救う猟師が、思いもよらぬ形で変形されてることで、無知な赤ずきんを「ムラ社会」の論理へと回収する訓育譚として語られてきた物語の読み方を完全に覆してしまっている。ここは脚本も務めた原作者アンジェラ・カーターの見事な脚色。
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