『グラディエーター2』において、ルシアスの父親がマキシマスであると、物語冒頭のあらすじで明言される。この事実は前作では明示されていなかったため、本作を通じて観客は新たにその血縁関係を認識することとなる。すなわち、ルッシラとマキシマスの関係は、婚姻外のものであったことが示唆され、前作におけるマキシマスの「家族への忠誠」という印象が揺らぐ。一見して倫理的矛盾とも取れるこの展開は、彼の人間性の複雑さ、そして政治と情愛の交錯するローマという舞台の中での個人の揺らぎを象徴しているとも解釈できる。
前作では繊細で華奢な少年だったルシアスは、16年の歳月を経て、たくましい肉体をまとった戦士へと成長している。演じるポール・メスカルは、これまで孤独や弱さを抱える男性像を多く演じてきたが、本作では一転して、精神的・肉体的にも強靭な人物像を体現しており、その俳優としての幅の広さと変容には目を見張るものがある。
演出面でも、前作との連続性が巧みに活かされている。特に象徴的なのは、物語の最初と最後の場面に見られる“麦”と“砂”のモチーフの反復である。前作では、マキシマスが麦畑に手をなびかせるシーン、そして剣を取る前に砂を掴む行為が強く印象に残ったが、本作では、ルシアスが冒頭で収穫された小麦に触れる場面から始まり、最後には闘技場で砂を掴むに至る。この構成は、彼がマキシマスの血を継ぐ者であるという運命の継承を詩的に示唆しており、演出として極めて秀逸である。
また、IMAXという上映形式が最大限に活かされたのが、三段櫂船の迫力ある戦闘シーンや、剣戟の金属音のリアルな響きである。音響と映像の両面で圧倒的な没入感を提供する一方で、残虐描写の生々しさは前作同様に顕著であり、大画面での鑑賞が苦手な観客には注意が必要かもしれない。
さらに、バカ皇帝を傀儡としながら実権を握るマクリヌスの存在は、ローマにおける政治構造の脆弱性と裏権力の存在を象徴的に描いており、史劇としての深みを加えている。