【】 いわゆるワールドシネマは国ごとのイメージで型が決まってしまい映像表現の可動域が狭いような気がする。そう思っていたら、ワールドシネマの顔をしながら自由度の高い演出をしてくるエジプト映画に出会った。それが『East of Noon』だ。独裁政治の中で生きる若者の苦悩を白黒ベースで描く本作は、この手のワールドシネマにありがちなひたすら辛い日常を描くのではなく、移ろいゆく若者の心のように作風を変えていく演出が特徴的となっている。主人公はミュージシャンのアブドであり、彼は部屋に沢山の楽器を並べ練習しながらチャイを啜る。モラトリアム大学生もののような質感で映画は進行する。かと思いきや政治映画としての側面も魅せ、はたまたマジックリアリズム的な不思議な画も飛び出してくる。画も静と動が使い分けられ、時にはカラーを用いて心理を表現しようとする。
監督のHala Elkoussyはフリーランスの写真家でもある。ロンドン大学ゴールドスミスカレッジでイメージとコミュニケーションの修士課程を修了し、2002年から2003年にかけてカイロのアメリカン大学で写真の講義を行う。2004年には、カイロを拠点に写真とビデオに特化したアーティスト・インディペンデント・イニシアチブ、コンテンポラリー・イメージ・コレクティヴ(CiC)を共同設立し、世界各所で展覧会を開催している人物である。2017年に『Cactus Flower』で長編映画デビューを果たし、先日行われたカンヌ国際映画祭監督週間で『East of Noon』がお披露目となった。