逃げるし恥だし役立たず

ミッドナイト・ランの逃げるし恥だし役立たずのレビュー・感想・評価

ミッドナイト・ラン(1988年製作の映画)
4.0
孤独な賞金稼ぎと彼に捕まった心優しい犯罪者が逃避行の旅を通して心を通わせていく姿を描いたアクション・コメディ。
シカゴ警察を退職しロサンゼルスで賞金稼ぎ(バウンティ・ハンター)をしているジャック・ウォルシュ(ロバート・デ・ニーロ)は、保釈金保証会社の社長エディ・モスコーネ(ジョー・パントリアーノ)に依頼され、ギャングのジミー・セラノ(デニス・ファリーナ)の金千五百万ドルを横領して慈善事業に寄付した"デューク"こと会計士ジョナサン・マデューカス(チャールズ・グローディン)の行方を追う。ニューヨークで難なくジョナサン・マデューカスを捕まえてロサンゼルスへ連れ帰ろうとするが、彼を狙うギャングとFBI、更にはジャック・ウォルシュの仕事上のライバルのマーヴィン・ドーフラー(ジョン・アシュトン)にまで追われるハメになる。しかも飛行機恐怖症のジョナサン・マデューカスのせいで、ロサンゼルスまで陸路で移動することになり、男二人の五日間にわたるアメリカ大陸横断の大逃走劇が始まるが…
タイトルの『ミッドナイト・ラン/Midnight Run』は「一夜で片付く簡単な仕事」を意味するスラングで、全体的にコミカルだが、スリリングなカーアクションや銃撃戦、コン・ゲーム風の騙しあい、ロードムービーやバディムービーのテイストなど、一本に様々な娯楽映画の魅力を詰め込んだ作品である。ロバート・デ・ニーロが最も好きな出演作と公言するだけあって、彼本来の男臭さに軽妙なフットワークで楽しそうに演じる姿は観てる此方も嬉しくなる。
気性が激しいが人情味のあるジャック・ウォルシュ(ロバート・デ・ニーロ)と知的だがトボけた曲者のジョナサン・マデューカス(チャールズ・グローディン)の掛け合いに加え、ジャック・ウォルシュに身分証を盗まれて赤っ恥をかくFBI捜査官アロンゾ・モーズリー(ヤフェット・コットー)、ライバルの賞金稼ぎマーヴィン・ドーフラー(ジョン・アシュトン)、金融業者エディ・モスコーネ(ジョー・パントリアーノ)、マフィアのボスのジミー・セラノ(デニス・ファリーナ)の、何とも憎めない面子が入り乱れての逃走劇は、キャラクタ設定の妙味と構成の良さが光る。正に全編に渡って面白さが鏤められた様な作品で、其の内容も良く練られた色濃い仕上りであり、感動や笑いを狙い過ぎていないところが逆に効果的である。軽妙なテンポとウィットが心地良く、終始飽きさせる事なく、楽しく愉快に観られて、ベタなオチでも許せるのは映画自体の質の高さ故だろう。
意義のある題材を扱った感動的な物語でもなければ、派手なアクションや斬新な映像などの、突出して優れたシーンのある名作とは言えない、今時の派手な映像表現に慣らされた目には何とも物足りない演出に、今更展開に作劇的な意外性は先ずもって無いのだが、娯楽映画の御約束がいっぱい詰まっており、ずっと映画史の片隅に置いておきたいような愛すべき佳作である。
人生の何かから逃げようとして犯罪者を追いかけるジャック・ウォルシュと、自分の人生を清算しようと前向きに逃げるジョナサン・マデューカス、かつて人生の何処かで歯車が狂って、失ってしまった仕事と家族を、ジャック・ウォルシュは旅を通じて甦らせる。僅か五日間の中年男性同士の奇妙な友情は滑稽であり、爽やかであり、少し切なく、何処かほろ苦くて堪らない、「来世で会おう(See you Next Life)! 」で終わる心憎いラストも素敵である。笑いと感動が一体化した屈指のロードムービーで、超良質のエンターテインメント映画である。
ライバルの賞金稼ぎマーヴィンにクレジットカードを止められたのが地味に効いてて草…ホントはコイツがジャックのコトを一番好きじゃないのだろうか?