正義を貫く刑事と、過去の事件が原因で彼に激しい恨みを抱く元エリート警官の対決の行方を迫力のアクション満載に描き出す、ドニー・イェンとニコラス・ツェーの共演のクライム・アクション。香港アクション映画界の巨匠ベニー・チャン監督の遺作。
東九龍警察本部のポン(張崇邦)警部(ドニー・イェン)は長年追い続けてきた凶悪犯とベトナムの組織による麻薬取引を摘発しようとするが、直前になって彼のチームは出動前に作戦から外されてしまう。その後、取引現場を謎の武装集団が急襲、彼の同僚のチームを含めた関係者を惨殺し、大量の麻薬を奪い去っていく。やがて捜査線上に浮かび上がったのは、かつてポン(張崇邦)を慕っていた元エリート警官のンゴウ(邱剛敖/ニコラス・ツェー)とその部下達だった。ンゴウ(邱剛敖)は四年前のある事件により運命を狂わされ、ポン(張崇邦)に激しい恨みを抱き、恐るべき復讐を計画していたのだった…
ニコラス・ツェーが深みと凄みのある魅力抜群の闇落ちしたサイコ野郎になって、手榴弾を躊躇なく撒いたり、ニヤつきながらナイフを自在に操る姿に比べると、ドニー・イェンの年齢(五十八歳)を感じさせない円熟味を増したアクションには感服するが、刑事一筋で堅物の熱血漢は役柄として単純で今一つ、ニコラス・ツェー側の悪役も何れも味があって良いが、強奪と殺戮を繰り返すに至る過程に納得性がなく、元警官が其処まで堕ちるのかと思うのだが、最後は知的な強盗団が追い詰められてヤケクソになるのが如何にも香港映画らしく、人物造形やストーリー構成も素直で解り易く、息もつかせぬ展開は非常に上手く出来ている。
ショッピングモールの銃撃戦からつかみはバッチリで、スラム街の様なドラッグ密売人のアジトでの一対多勢の肉弾戦に、セットで再現された廣東ロードの凄まじい銃撃戦やギリギリを衝くカーチェイス、撮影に二週間も費やした修繕中の教会での二人のラストの格闘戦と、アクションシーンが全編バランス良く配置されており、車や人が溢れ返る白昼の市街地で繰り広げる大銃撃戦は『ヒート(1995年)』を思い出させる一方で、車とバイクで並走しながら格闘する殺陣や、子供を車両の衝突から救う場面、無駄に車がジャンプしたりクラッシュしたりと香港映画の独創性も味わえて、現時点での香港映画の理想的な形となっている。
だが、怒涛のアクションの連続により、各パートの繋ぎに演出もしくは編集上のアラが散見されて気になった。特に最近のアクション映画に見られる、不自然な爆発シーンのCG映像にはゲンナリ、そんな飾り付けよりも、生身の人間同士の純粋なアクションに徹底してくれたら良かったと不満を覚える。
香港映画の基本中の基本が本作品の骨格にあり、其れは或る意味で、過去に膨大な蓄積を重ねた香港映画へのオマージュとも取れる。やはり面白さを突き詰めれば基本に戻る訳で、映画は全て基本が大切だと実感させられる。ただ、中国資本の介入によって、香港警察の腐敗や香港社会の荒廃の描き方を抑え、過激な暴力描写をカットされた経緯を考慮すれば、継承され進化し続ける香港映画の独自性が今後も保たれる事を切に願うばかりである。
カーアクションに銃撃戦や肉弾戦など色々なアクションシーンが天こ盛りの大活劇、だが物語は元暴力警官達の随分と回りくどい復讐因果譚であって…警察副総監やら資産家やらを直接襲えば良い訳なのだが…