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グエムル -漢江の怪物-のこーべいのレビュー・感想・評価

グエムル -漢江の怪物-(2006年製作の映画)
4.0
ソウル市内を流れる漢江(ハンガン)に現れた謎の生物グエムル。集団パニックに陥ったソウルで怪獣に娘をさらわれた家族の救出劇がはじまる。

表面的には怪獣パニック映画の体をとっているが、ソウル市民にとっての漢江への感情が描かれた映画なのだと気づいた。

漢江はソウルに暮らす人たちにとって母なる河であるはずなのに美しさや親しみを込めた意味を込めて描かれていない。むしろ近づきたくない怖い存在として描かれている。
冒頭で自殺しようとする人が橋の上から河を見下ろすシーン。何もかも飲み込んでしまいそうな漆黒。深く不気味にうごめく渦。ここだけで背景が全て表現されている。
ふだん自分たちが垂れ流している生活排水や汚染物。大切な河とわかっていながら自分たちが汚してしまっている漢江。目を背けている後ろめたさがやがて恐怖心へと変化しているのだろう。高度成長期に日本人が東京湾に『ゴジラ』を生み出したのと同じロジックなのだと思う。
東京湾の水への畏怖を描いたものとして鈴木光司原作の『仄暗い水の底から』という映画があったが、背景にあるものがとても似ている気がした。都市生活者は自分の便利さのために犠牲にしているものからの復讐を潜在的に畏れているのだ。

反米的なメッセージが込められているようだけど、私には都市に潜むホラーという視点で観たほうがしっくりきた。