一人旅

プリンス・オブ・シティの一人旅のレビュー・感想・評価

プリンス・オブ・シティ(1981年製作の映画)
3.0
シドニー・ルメット監督作。

ニューヨーク市警に蔓延る汚職を摘発するため警察内部に潜入捜査する麻薬特捜班の警官・ダニーの姿を描いたドラマ。

シドニー・ルメット監督作品で、しかも上映時間約3時間という大作にも関わらず知名度が抜群に低い不運な作品。内容はルメット監督お得意の“警察の汚職とそれに立ち向かう男”の姿を描いたもの。『セルピコ』『Q&A』『NY検事局』などニューヨーク市警の汚職を題材にしたルメット作品は他にもいくつかあるため、相対的に本作の存在感が薄くなってしまったように思える。

約3時間という長尺の作品でありながら、同様のテーマの『セルピコ』などと比べとても地味な作風で、アクションやサスペンス的演出はほぼ存在しない。ただひたすらに、検察に協力を依頼された汚職警官のダニーが警察内部の潜入捜査を図り、汚職の疑いのある人間ひとりひとりから汚職の証拠を探り出していく姿を描き出している。
ここでストーリーの焦点となるのが、「正義と友情の狭間」におけるダニーの苦悩と葛藤だ。共に犯罪に立ち向かってきた仲間だけは摘発しないという条件で検察への協力を承諾するダニーだが、汚職捜査の進展に伴い、大切な仲間たちまで検察による捜査・起訴の対象となっていく。法という正義を貫くことで、正義とは無関係の“仲間との個人的友情”を裏切ることになる現実に苦悩するダニー。生身の人間としての感情を完全に無視して、あくまで法の正義を貫き通すことの難しさ、そして、何より法の正義に従うべき立場にある人間の心の弱さを浮き彫りにする。

全編を通してそれなりに見応えはあるものの、ルメットの警察汚職物はどれもテーマが似通っているため特別新鮮味はないし、後年別の作品でそのまま焼き直しされてしまった演出もちらほら。汚職の罪の意識に苛まれた挙句自殺を遂げてしまう者が出てきたり、最後に主人公が辿る結末は『NY検事局』と酷似。ルメット映画のファンとして悲しくなるレベルで似ている。

また、ルメットの映画には抜群の存在感と演技力で魅了してくれる役者が一人はいる。たとえば、『質屋』のロッド・スタイガー、『セルピコ』『狼たちの午後』のアル・パチーノ、『NY検事局』のアンディ・ガルシア、『Q&A』のニック・ノルティ、『評決』のポール・ニューマンなど...。だが、本作で主演を務めたトリート・ウィリアムズは、検事の面々を前に声を荒げて怒りを露わにするシーンでは熱のこもった演技を見せているものの、その存在感はいまいちパッとしない。
一人旅

一人旅