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Rose(原題)
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『Rose(原題)』に投稿された感想・評価

["ズボンを履いた方が自由になれるから"] 70点

2026年ベルリン映画祭コンペ部門選出作品。マルクス・シュラインツァー長編三作目。17世紀初頭のドイツの小さな村に、謎めいた兵士が現れた。頬に大きな銃創のある小柄で控えめなその元兵士は、長年放棄されていた農場の相続人と名乗っていた。村人たちは当然疑うが、勤勉で優秀な元兵士はすぐに農場経営を立て直し、熊に襲われた羊飼いを救出し、共同体に溶け込んでいく。あるとき、農場を拡張しようとしたところ、交換条件として地主の娘ズザンナと結婚することになる…云々。ゾッとするようなモノクロ絵画世界のような固定ショットと冷たいナレーションによってローズの短い後半生が静かに語られていく(監督がキャスティングを担当した『白いリボン』を思い出すのは、キャストが数名被ってるのであながち間違いじゃないのかもしれない)。それは後に"ズボンを履いている方が自由だから、それが可能だと思ったら"と語る通り、誰かを騙そうとする策略ではなく自分が自分でいられるような生き方を実現したということだ。この時代に女性がどのように生きていたか?はズザンナを見れば分かる。父親の政治の道具として嫁がされ、従順さと貞淑さ、子供を産み育てることを求められ、仮に離婚したとしても屋敷は彼女の物にはならず、次に来た男にあてがわれる。二人に子供が出来るが、ズザンナは子供の父親が誰であるか頑なに口を割らない。おそらくはズザンナの父親が子供の父親であると思われる。女性は虐げられて当たり前な一方で、男性陣は比較的自由に行動可能で、勤勉/優秀/敬虔であれば簡単にコミュニティに溶け込めることも提示されている。"お前はルールを破った、コミュニティはルールで成り立ってる"と指摘されるが、彼女をその勤勉/優秀/敬虔さで受け入れたのはコミュニティの方だ。"教えた文字は、与えた給料は、土地は、収穫は、全て詐欺だと思うか?"という問いは、男性のみを主体性があり信頼に値するとする価値観への問いになっている。貴方が手にしたそれらのものは、どちらの性別から貰ったかが重要なのか?
4.3
【平穏を求め私は偽る】
動画版▽
https://www.youtube.com/watch?v=TQIRkSnPDho

2026年はザンドラ・ヒュラーの年である。彼女は『落下の解剖学』『関心領域』で注目され、『プロジェクト・ヘイル・メアリー』『DIGGER/ディガー』『アベンジャーズ/ドゥームズデイ』と一気にハリウッド大作に抜擢されるようになる。一方でアート系映画でも大活躍しており、この前のカンヌ国際映画祭のコンペティションに選出された『Fatherland』でも高い評価を受けた。そしてベルリン国際映画祭に出品された『Rose』では最優秀俳優賞を受賞した。

『Rose』は『ヒトラーのための虐殺会議』でオットー・ホーフマン役を務めたマルクス・シュラインツアー監督による作品。映画監督というよりかはキャスティングディレクターとしての歴の方が長く、ミヒャエル・ハネケ、ウルリッヒ・ザイドル、ジェシカ・ハウスナーなどオーストリア映画を支えている人物である。本作は彼がキャスティングディレクターを務めた『白いリボン』と鏡像の関係にあるような作品である。

17世紀、中央ヨーロッパで行われた三十年戦争がようやく終わる。ひとりの兵士が村にやってくる。その兵士は屋敷の相続人であると名乗り出るのだ。村人たちは怪しむも、献身的に農場の再建に取り組むこの謎の兵士に気を許していく。しかし、この兵士の正体はローズという女性で戦死した戦友の身分を偽り、男装していたのだ。

やがて政略結婚としてこの地の有力農家の娘スザンナと結ばれるのだが、なかなか子どもを作ろうとしないローズを怪しむ。ローズは苦肉の策としてあることをする。

本作は自由のために男装という制約を課すも修羅場に発展してしまう様を静かに描いていく。白黒を基調とした撮影の中でザンドラ・ヒュラーの魅せる冷静沈着な間は映画に格調高さを与えている。

映画はトーンを抑えながら進行する。農場再建のルーティンを淡々と提示する。ローズもルーティンをこなしていくのだが、突如クマが現れるとピタッと静止する。少しでも動けば喰い殺されるであろう緊迫。観客はハラハラドキドキするわけだが、そんな修羅場を慣れていますよと言わんばかりの冷静さで対処していく。村はこのようにクマや暴風といった激しい自然の猛威に晒されるのだが、ローズだけが覚悟決まった顔で対処していく。この動と静を制御したショット、その要となるザンドラ・ヒュラーの表情に圧倒される。彼女はとっくに死んでいたような人物。でも自由のために生まれ変わった。だから今を粛々と生きる覚悟が彼女のアクションに説得力を増すのだ。

映画史からの引用も堅実であり、映画の終盤にはカール・テオドア・ドライヤー『裁かるゝジャンヌ』を引用しながら、顔の映画であることを強調して終わる。なるほど、ここまでの徹底あってこその俳優賞受賞なんだなと感じた。映画はスペクタクル的な悲劇の瞬間は魅せることない。静かに運命の終焉をフェードアウトして終わらせる。それにより味わい深い一本へと仕上がった。
もも
3.8
引き算の極み。

何も足さない。
何も煽らない。

実話ではないけど、ドキュメンタリーを観ているような感覚だった。

ドイツならでは。
マルクス・シュラインツァー監督ならでは。

結婚したあと、妻にかけた言葉にあった「自由」。
たぶん、それこそが彼女がずっと求めていたものだったんだと思う。

ザンドラ・ヒュラー、すごかった。

最後の眼差しがどうしても頭から離れない。

2026.193