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あの夏の子供たちのakrutmのレビュー・感想・評価

あの夏の子供たち(2009年製作の映画)
4.0
資金繰りが逼迫している映画製作会社を経営している男性プロデューサーとその家族の行く末を描いた、ミア・ハンセン=ラブ監督のドラマ映画。実在する映画プロデューサーのハンバート・バルサンが主人公のモデルとなっている。

映画の前半では、多額の借金を背負いながら興行成績を無視して自分の信じた監督の作品を世に出すべく、資金繰りに奮闘するプロデューサーの姿が描かれる。携帯を片手にずっと仕事をしていても妻と3人の娘との時間も大切にする姿に、さすがフランスだと思いながらも、映画の後半では残された家族の思いとともに、映画会社をどうにか存続させようとする妻の奮闘が描かれる。ミア・ハンセン=ラブ監督のデビュー作『すべてが許される』で見せた家族(特に父娘)の関係を静かにじっくりと表現するというスタイルが二作目である本作でも踏襲されている一方で、家族の姿だけではなく製作会社やプロデューサーの視点から映画製作の裏側も描いているのが特徴的である。

本映画をぱっと見る限りでは、父親の自殺によって残された家族がテーマのように見える。しかし、遺族の悲しみに焦点を当てている映画だと考えると、後半の展開はどこか的を外しているようにも感じてしまう。実はそれが監督の意図するメインテーマではない。映画製作の裏側をテーマとした映画は数多くあるが、ほとんどは監督にフォーカスしたものであり、映画製作には監督や撮影現場以外の多くの人々が関わっていることを描いた作品は少ない。ミア・ハンセン=ラブ監督は、実在の人物をモデルにしながらも、プロデューサーや映画会社という今まであまり注目されてこなかった部分を光を当てているのである。その証拠に、撮影現場のシーンや監督の姿はほとんど出てこないし、夫を亡くした妻が会社を存続させるために奮闘する姿がきちんと描かれている。そういう意味では、邦題はやや的外れであるし、原題の『Le père de mes enfants(私の子どもたちの父)』 の「子どもたち」には二重の意味が含まれているだろう。

ミア・ハンセン=ラブ監督の静かな筆致は本作でも効果的で、とても良い作品である。妻を演じるイタリアの女優キアラ・カゼッリの演技も良いが、最も印象に残ったのは複雑な感情を抱く思春期の長女を演じたアリス・ドゥ・ランクザン。オリヴィエ・アサイヤスの『夏時間の庭』で本格デビューした後の出演作である。特にラストシーンが心に響く。
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