きゃんちょめ

ドラキュラのきゃんちょめのレビュー・感想・評価

ドラキュラ(1992年製作の映画)
4.0
序盤から現地(ルーマニアのトランシルベニア、カルパチア山脈のワラキア)の言語なのが素晴らしい。

妻が誤って自殺しちゃって悲しんでいるときに、「自殺したので、あなたの妻は神の法律によると、地獄に落ちました」って言っちゃう司祭様の宗教への忠実さにむしろ感心した。そんなこと言われたらヴラド=ツェプェシュ公もブチ切れて神を呪うわな。

Is this my reward for defending God's church? Sacrilege! I renounce God!

『これが私が命がけで神様の教会をオスマン=トルコの軍勢から守ったことに対する報酬か?私は、神を放棄する!』

そういって泣きながら十字架に剣を突き刺すヴラド公を見ていたら、自然に、大粒の涙が溢れていた。

(しかも、『君の名は』なんかよりずっと泣ける男女の反転もありますよ。)

色んな登場人物内の視点で物語が語られるのもとても面白い。ある時は手記だったり、船乗りの日記だったり、あるときは記録音声だったり。

吸血鬼というゴシックモンスターが、本来はセックスについての本質的な恐怖と避けがたい魅力のメタファーであることが劇中の描写でよく分かる。 一体何回セックスが描かれるんだ?

アンソニー=ホプキンス演じるヴァン=ヘルシング教授は明らかに狂ってる。そして口から大量の血液を彼に吐きかけるルーシーもマジでヤバイ。エクソシスト以来の衝撃。美女の首を3つもって歩いてるホプキンスにやられた!

ゾンビが『吸血鬼』から実はアイデアを得ていることが、この映画をみるとすごーくよく分かる。たとえば、吸血鬼となった愛する人を殺せるのか問題。これもちゃんと描かれてますよね。しかも、頭を切り落とさないと死なないんだよ。

あと、翻訳に疑問点があった。

Our work is finished here.Hers has just begun.

という終盤のセリフを、

『我々の仕事は終わった。ミナに任せよう』って訳してるんんだけど、ここはむしろ直訳して『我々の仕事は終わったが、彼女の仕事は始まったばかりだ。』って訳すべきだと思う。細かいけどね。この方が、ミナにドラキュラへの運命的な愛とその死をゆだねるフィアンセ、ジョナサンの決意が現れててかっこいいと思う。

美術が素晴らしい。さすが『ザ=セル』やポール=シュレイダー監督『ミシマ』の石岡瑛子さん。

最初のドラキュラの甲冑は筋肉に見えるし、ルーシーの花嫁衣装はトカゲ、最後のドラキュラはクリムトの『接吻』という絵画のオマージュ。表現主義が通底した映画はなぜにこれほど面白いのか。あんなかっこいいお城におれも将来住みたいと思わされるほどかっこいい。とにかく美術が素晴らしい。いちいち描写がすげぇもん見たって気分にさせられる。美女が猿とまぐわってたり、絶望すると顔が恐ろしいくらいにねじ曲がったり、血液が洪水みたいに吹き出したり、とにかくビジュアル的に目にも楽しい。故郷の土の中で眠っているドラキュラの姿がかっこよすぎる。

ラストシーンにおける『女と男の反転の対比』もまさに見事。これこそが俺の『君の名は』だ!しかも『君の名は』は高々ガキの色恋だが、こっちは400年間に渡る永遠の死と愛をめぐる超弩級の純愛だ!

映画史についての鋭い目配せもある。ペニーアーケードで、発明直後のキネマトグラフを見るドラキュラ!当時の技術で撮影された登場人物!影絵で動く兵士たち!さすが映画博士、フランシス・フォード・コッポラ。F・W・ムルナウの『吸血鬼ノスフェラトゥ』のオマージュも随所に見られた。

映画として完璧です。

いま、何を見ようか迷ってるなら、ぜひ、これを見てください!
きゃんちょめ

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