きゃんちょめ

オッペンハイマーのきゃんちょめのレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
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【『オッペンハイマー』について】

約30分前に池袋で見てきた。結論から言うととても面白かった。以下では、俺の感想を箇条書きで書いてみる。マジでさっき見たばっかりだし、一度しか見ていないので、間違っているところも多いかもしれない。申し訳ない。

⑴フローレンス・ピューが演じる浮気相手が会議室で全裸でオッペンハイマーにまたがるシーンがよかった。しかも、またがりながら正妻の顔を直視していて、とても迫力があった。あのシーンだけでも1000円ちょっとの料金を払ってよかったなと思った。

⑵映画の冒頭から、やたらと波紋が水面上にひろがったり、スピーチを聞く人々の間に振動が広がったりするシーンが何度もでてきて核分裂反応のチェイン・リアクションの暗示的表現になっていて素晴らしかった。ちょっと説明過多じゃないの、とも思ったが、ノーラン映画だから素晴らしいと思う。

⑶ファインマンさんの描き方がマジで太鼓だけだったのが悲しかった。せめて、セリフがひとつくらいあってもよかったと思う。ボーアとかはセリフたっぷりあったのにね。ヴェルナー・ハイゼンベルクやクルト・ゲーデルも出てきたね。

⑷アインシュタインの描き方がとてもよかった。具体的にはどの場面かというと、アインシュタインが一度、「地球上の空気が原爆で引火することによって、地球がすべて火の海になるかもしれない」という間違った計算結果をオッペンハイマーたちによって見せられたときに、それを明確に否定しなかったシーンがあったのだが、そのことが巡り巡ってアインシュタインの正しい予言になるかもしれないということを、匂わせて最後に映画が終わっていく場面。その場面が非常に示唆的で、すぐれた演出だなと思った。

⑸この映画は三層のレイヤーに分かれていた。つまり、①ルイス・ストローズが主人公になっている白黒のレイヤーと、②現在を描いたカラーのレイヤーと、③カラーなのだが現在からみた過去を描いた回想のレイヤー、というこの3つの層に分かれていた。この3つのレイヤーのうち、①はあまり面白いとは思わなかった。冗長だったと思う。やはり非日常描写はやたらうまいのだが、日常描写はどこか的外れであることが多いノーランらしい表現だなと思ってしまった。「シーツを入れろ」とか「シーツを入れるな」とかいって暗号で妻と会話するシーンがあるにはあるのだが、あまり上手いとは思えなかった。とにかく俺は、日常描写(と女性描写)が繊細さに欠けるのではないかと、ノーランに対して思ってしまうことが多い。

⑹ジョン・F・ケネディがやたら終盤に強調されていたが、やたらビッグネームを出せば冗長さがなくなると思っているのかもしれないが、正直、あまり意図がわからなかった。

⑺一緒に見た同居人は、もっと広島や長崎で発生したケロイドの映像や写真を劇中に映すべきだったと上映後に主張したが、私は黒コゲ死体だけ映ったので十分であり、むしろそのくらいのほうがオッペンハイマーの罪悪感がうまく描けていていいんじゃないかと主張した。上映後に意見がぱっくり分かれていて、そこも面白かった。オッペンハイマー本人は自分を戦争の英雄だと思いたいし、だからこそ広島や長崎の写真からは目を背けることをしているのに、それでも抑えきれずにどうしても日常のそこかしこに、黒コゲの焼死体が見えてしまうということのほうが、潜在意識レベルに残ってしまう彼の罪の意識がうまく表現されていて、怖いと思うのだが、これは俺の考え過ぎかもしれません。いつも俺は考え過ぎてしまう。ただ、ひとつ気づいたのは、戦争の英雄だと自分のことを思い込みたいやつが、その思い込むことに失敗するほどに原爆は残虐だということです。

⑻この映画の中で描かれていたエドワード・テラー博士が水爆賛成で、オッペンハイマーが水爆反対というこの隠れた対立軸のほうが、ルイス・ストローズとオッペンハイマーの対立軸よりも面白いだろうと思った。
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