今敏監督作品の中で最もサイケで最もクオリティが高い(と個人的に感じている)映画。
ミステリー・ホラー・サイコ、全ての要素が絶妙な配分で混ざり合い、その全てがシナリオを構成する柱となって映像を支えている。無駄な要素が無く、ほとんど全ての演出が目的を持って観客を揺さぶりかける。アニメ映画における「クオリティが高い」とはまさしくこういうことで、作品的に非常に綺麗にまとまっている。
現実(real)と対比した形で「夢」「幻覚」「ドラマ」が使われる。それら「非-現実」の要素は「殺人犯の正体」「未麻の正体」というミステリーの謎を撹拌し、物語を難解にしている。物語の難解はともすれば視聴者の退屈に繋がってしまうが、「ストーカー被害」という要素が常に画面を緊迫感で満たしているので、視聴者は一瞬たりとも気を抜くことができない。緊張で張り詰めた糸がサイコな空気によってぐるぐると撹拌され、わたしたちは未麻と同じく夢と現の境界に立たされることになる。
アイドルという(あえて悪く言うなら)俗っぽさが、アニメに求められる定型のアツさをしっかりと拾い上げている。斜に構えてない。コンサートライトの光を浴びてオタクたちの拍手喝采の只中に佇むことのエモーショナルは、アイドルのアツさが限界まで開拓された現代だからこそ逆算して窺い知ることができるし、それ故に、我々はアイドルの曇らせの壮絶と、淀みの中で輝く光とそれを信じる「祈り」を知っている。高尚と対比したアイドルの俗性が、アニメ映画のフォーマルな空気感を橋渡しし、クライマックスへと我々を連れて行ってくれる奇跡のような80分間を体験できる。
ラストは非常にあっさりとしているが、この映画には精神力が求められるため、叩きつけるようなドラムの打撃音によって緊張が解ける瞬間には言い知れない解放感がある。
数年ぶりに、それも劇場で観ることができて本当に嬉しかった。グロとエロとデカい音がイケるオタクは全員見てほしい。
