原作は未読ながら角田光代だし、日本アカデミー賞でかなり評価されていた事もあり、以前から気になっていた。重厚なテーマを井上真央と永作博美の実力派女優がどのように演じるのかも大変興味があった。
三つ子の魂百までと言われるように、子どもの人格や性格が形成される時期に接した大人の影響は計り知れない。その時期に全くの他人に育てられた後に両親に戻されるとは何たる試練…子にとっても親にとっても取り返すことのできない不幸体験が生涯付きまとう。実の親子でありながら、お互いがそう思えない環境での共同生活…当事者だったらと想像すると本当にゾッとしてしまう。
衝動的に愛人の赤ん坊を奪った女を永作博美が演じるが、我が子でない相手に対して母性を発揮し愛情たっぷりに接する姿が痛々しくも健気で、決して許される事ではないが、束の間ながら幸せを与えている姿には何故か感情移入してしまう。いい演技しているなと思う。
実の両親から引き離され物心がつくまで他人に育てられた女のその後を井上真央が演じるが、こちらも複雑な環境に接して健全な精神発達が阻害された”訳あり感”を上手く見せつけてくれた。かつて自分を奪い去った女の影を追い、自らに起こった過去の事件への想いの変化、そして突きつけられた現状の問題に対して力強く決意するまでの難しい役所を見事にこなした。
彼女が施設に入所していた時に一緒に遊んでいた女の子のその後を演じた小池栄子がまたよかった。幼い時の環境からある障害を抱えながらも、大人になり誘拐事件を知るうちに触発されて人生を変えようと思い立つ役柄で井上真央を揺さぶる。
実母を演じた森口瑤子も流石の実力派で、血の繋がった娘が懐いてくれない不幸と苛立ちにもがき苦しむ様子が気の毒なほどに伝わってくる。
本作はストーリーも自分好みだったが、女優たちの見せ所も満載で大変印象に残った。もっと早くに見ておくべきだった。
