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八日目の蝉のdeenityのネタバレレビュー・内容・結末

八日目の蝉(2011年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

題名が有名すぎて見ることを敬遠していた作品。邦画もまだまだと思うこともあるが、こういうヒューマンドラマは至高なものもあって本当に感動させられる。久しぶりの名作。

少し前に『そして父になる』を観賞して、「家族に必要なのは時間か血か」というテーマだったが、本作はまた少しテイストが違う。時間とか血とかそういう問題じゃなく、「母親になるために必要なもの」が主題。もっと根本の「愛」が大きなテーマだと思う。だから深く考えさせられる。

冒頭のシーンで二人の母親が同じカメラワークで同じスポットの当て方をされる。この共通項からどちらも強い意志に基づいて語っているのが見てとれる。永作博美の方が演技も含め強烈なインパクトを受けるが、自分の行いに対して「感謝しかない。お詫びの言葉すらない。」というのは思わず息を飲んだ。

実の母親ではないからこそ香を育てるのには苦労する。それでも間違いなく愛を与え続けていく。施設から島に移る辺りからの二人の姿はすごく印象的。空を見上げることが増える。自由にいろんな物を見に行こう、と声をかける。星の歌は「見上げてごらん夜の星」なのね。実母のヒステリックなシーンを見せていたからこそ、このシーンの良さが目立つ。
島では二人が生き生きとしていて、1シーン毎にこの後の二人のことを考えると目頭に来る。自転車で坂を下るシーンは自分の子宮から出てきたことを暗示するかのように見えた。本当に親子なんだと。

自分の家庭を壊した女と恨んでいた。あの人がいなければ普通の家庭を送れたかもしれない、と思ったのも間違いではない。しかし、永作の深い愛を感じ、それを受け取ったのもまた事実。幼い頃の記憶にしっかり愛が残っていた。
クサい演出をしないのもまたいい。無駄なBGMはないし、永作と最後に会うシーンなんか入れていたら評価は下がっていたと思う。この作品の主題はそこじゃない。「母親に必要なものは何か」だ。井上真央のラストシーンは感動させられるが、自分自身の身籠った子どもというのは大きな鍵で、その子に何を思うかがまたポイントとなる。
「顔も見たことないのにこの子のこと好きだ」愛だな、と思う。その思いに気づくこと。シンプルだけどすごく強いメッセージが伝わってきた作品だった。
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