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オッペンハイマーのdeenityのレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
3.8
今年度のアカデミー賞を7部門受賞。ノーラン監督の快挙ともなれば話題性は凄まじいわけですが、実際上映までにはいろいろあり、日本での公開はだいぶ遅くなっての上映となりました。

まあその原因の一つとして、本作で描かれたオッペンハイマーが日本の被爆と切っては切れない関係の人物で、公開することによって戦争の傷を思い起こさせ、映画だけでなく公開したこと自体に対しての批判なども考えられ得るからでしょうね。

本作は「原爆の父」と言われたオッペンハイマーの伝記的映画であり、もちろん反戦反核映画ではあるのだけれど、見手によっては受け取り方が異なるわけで、不愉快に感じる人も0とは言い切れないと思います。
ただ、実際米国賛美映画とはなっていないのも事実であって、正しく受け止める人もいるわけだから、見る側に委ねる意味でも公開を遅らせるとかはやはり一映画好きからすると避けてほしいと思えてしまいます。

そんなこんなで公開にあたっていろいろあった本作でしたが、ノーランらしさ溢れる良作であったのは間違いないですね。
ノーラン映画といえばIMAXだと思うので、もちろん私もIMAXレーザー環境で鑑賞してきましたが、特に音が素晴らしいですね。音圧と表現すればいいのか、とにかく迫力が素晴らしかったですし、これからの鑑賞ならぜひIMAXでの鑑賞がおすすめです。

ただ、いかんせん情報量は多い。毎カット毎カット情報が追加されていくような会話劇の構成で、尚且つ異なる時間軸を入り組んで見せる作りになっているため、180分という上映時間も相まって難解に感じる人は多いと思います。
事前に予習をしていくことについての賛否はあると思いますが、個人的には前情報あった方がすっきり見やすい気はしますね。言ってもネタバレとかではなく史実ですし、そこで新たな発見を得ることが目的ではないので、本作を味わうことに支障が生じるぐらいなら情報を入れた上での鑑賞がおすすめです。

とはいえここからはネタバレ含みますので情報なしで見たい方はご注意ください。

本作の構成の話をしましたが、オッペンハイマーの聴聞会とストローズの公聴会の2つの場面を軸に展開されていきます。見せ方としてもカラーとモノクロで使い分けており、気づいた上で見ると結構整理されて見られるように思いましたが、徐々にその作りに気づいていくことになるのでどうしても理解が遅れ難解に思えてしまい、らしさではあると思うのですが、個人的にはあまり親切じゃないなと思えてしまいました。

そのせいか、ストローズのパートはいまいち感覚的にしか掴めておらず、あくまでオッペンハイマーの心境しか抑えられていない感があります。
それでも十分すぎるほどの苦悩は感じました。殊に原爆を落としてヒーローかのように扱われるシーンと自身のギャップとかは印象的でしたし、被害状況に目も向けないシーンとかもよかったです。
日本が被爆するシーンに関しては描かせていませんでしたね。演出的な問題でいろいろあるのでしょうが、やはり唯一の被爆国として、原爆を落とすかどうかの決定を下す米国の会議とかは何ともいえない感情がわいてきました。

そのかわりトリニティ実験の描写は丁寧に描かれていました。あの音の演出はよかったですね。その後の長めの火のカットも。

やはり反戦反核映画とはいえ、日本人として愛国心というのか、何となく複雑な感情も芽生えたりしますが、風化させるのではなく、そこに目を向けるためにも今改めて見ておく作品だと思います。
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