針

ブラックブックの針のレビュー・感想・評価

ブラックブック(2006年製作の映画)
4.1
何作か観るうちにヴァーホーヴェンの人間観は最高!……という気持ちになってきました。

舞台は第二次世界大戦末期のオランダ。ナチスに家族を殺され、対独レジスタンスに身を投じたユダヤ人女性の復讐譚。

戦時下サスペンスとしてはわりとありがちなストーリーだと思うんだけど(メロドラマと言ってもいいくらい)、代わりに情け容赦のない描写がすんごくよかったです。内容的にも2時間半をゆうゆう保たせる娯楽大作。

個人的にはやっぱり作品全体の発している強烈な人間観に痺れました。虚飾を剥ぐ快楽っつうのはまぁたまんないもんですね。それと同時に、人間どうしてこうなんだろうというやるせない気持ちにもなる……。ほんとの意味での“フラット”な人間描写、と言ったら言いすぎでしょうか。

あとはこの女性主人公(ラヘル/エリス)が自分は好きでした。カリス・ファン・ハウテンという方が演じていて、彼女自身の魅力ももちろんあるけどキャラクターがいいなーと。うまく言えないけど、純粋でもなければ悪人でもない、賢くもなければ愚かでもない、あまり理想化の匂いのしないごくふつうの女性という感じがする。いわゆる「キャラクターが立ってる」とは逆の人物造形かもしれないんだけどそれゆえに生き生きとして見えるような。これは自分が男だからそう思うだけかもしれないけど。

ちなみに一番好きなシーンは、腹を空かせた彼女がウサギ用の人参を一部パクって食べるところ。ちゃんと自我もあるし行動的だけど、過酷な状況には抗えずに流されていくというストーリー上の立ち位置もいいのかもしれない。もちろん「女性」であることを武器にレジスタンスしなきゃならない彼女の立場がつらすぎるというのは当然なんだけど……

2ヶ所ぐらいあんまりな説明ゼリフがあったり、ちょっと展開が飛ぶところもあったけど自分はかなり好きな作品でした。ヴァーホーヴェンってなんとなく大雑把な人という先入観を持ってたんだけど(超失礼!)、作品全体の構図にかなり神経を使うタイプの人なのかなーと思いつつあります。描写やエピソードの積み重ねによって作品全体が描き出すテーマやトーンやメッセージがちゃんと一貫してると感じることが多く、肝心なところは踏み外さないので多少引っかかりがあってもあまり気にならないのかなと。まあ個人的な感想ですが。

アメリカの理想をおちょくる映画もかなり面白かったけど、ヨーロッパを舞台にした作品はさらに面白いような気がしています。次はハリウッドに行く前のやつを観たいなー。
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