もっちゃん

姿三四郎のもっちゃんのレビュー・感想・評価

姿三四郎(1943年製作の映画)
3.8
柔術と柔道が互いに威信をかけて、争っていた明治時代の話である。姿三四郎という柔道家を通して本当の「柔道家」とは何たるかを問うた作品。

それまでのいわば戦闘術としての「柔術」が位置を占めていた江戸時代が終わり、急速な近代化が進んだ明治時代には「柔道」が台頭していく。それは近代的日本国家を建設するための国策であったわけだが、戦闘術としての「柔術」から人としての道を究める「柔道」に変わっていたわけだ。

そして姿三四郎は「柔術」よりも「柔道」に魅了されていく。「道」の習得を最重要課題とする師匠矢野正五郎との出会いによって、三四郎は自らの進む道を発見する。いわば、古典的なビルドゥングスロマンである(というよりものちに少年漫画で大量生産されていくそれの源流である)。

そういう意味では、この作品を「退屈だ」とか「間延びしている」と感じるのはいわば仕方のないことである。なぜなら我々が今慣れ親しんでいる少年漫画を筆頭としたサブカルチャーの成長譚ものはみな今作を様々にデフォルメしたものであるからだ。
今作が本当に退屈なわけではなく、逆に優れているからこそ受け手(観客)の目が肥えてしまったのだといえる。そういった意味では連綿と続く系譜の中の歴史的な一作である。