もっちゃん

沖縄 うりずんの雨のもっちゃんのネタバレレビュー・内容・結末

沖縄 うりずんの雨(2015年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

去年評判になっていたが、地元の映画館を逃したため今回レンタルで鑑賞。沖縄の戦中から現在までの歴史を断片的にでも把握するという点ではよいドキュメンタリーに仕上がっている。

日本の第二次戦争を語る上では必至のトピックである「沖縄」。地図上に表せばあんなに小さな土地にも関わらず、あの土地一つに日本の戦後のすべてが詰まっている。今作は沖縄の歴史を①沖縄戦、②占領、③凌辱、④明日へ、という四つのタームに分けて表象する。

①沖縄戦においては戦時中、国土のすべてが戦地と化した沖縄でどういった戦いが繰り広げられたかを実際に体験した世代の証言をもとに検証する。面白いのが、監督が米国人ということもあるのだが、日本人(軍人、挺身隊など)だけでなく、当時沖縄本土で戦闘に加わった米軍兵士にもインタビューを行っている点である。
沖縄戦を語る論調は日本においては「被害者」の視点からなされることが多い。ゆえに今作のように加害者(上からの命令に逆らえなかったという点では彼らも「被害者」であるといえるかもしれないが)の視点を挿入できたのは意義深いことである。

登場する戦争体験者たちは総じてみな高齢である。彼らの生々しい伝承はやはり聞いていてあまりにもリアルで耳を塞ぎたくなるようなものばかりである。しかし、彼らの伝承ほど後世に対する戦争への抑止力になるものはないだろう。さらに戦争体験世代がどんどん減少していく昨今、彼らの生の声を取り上げていき、さらにはどのようにそれを継承していくかはさらに議論の余地があることだろう。「大きな物語」の継承から「小さな物語」の継承へ。記憶の風化をどのように乗り越えていけばいいだろう。

②占領においては戦後、アメリカによる占領下におかれた沖縄のアイデンティティの変容を描く。興味深いのは沖縄人がアメリカへの憧憬と拒絶の間で揺れ動いているだけでなく、そこに本土へのそれも加わっている点である。戦時中まともな扱いを受けていなかった沖縄人は米軍による占領下において戦時中よりはましな生活を享受することができるようになった。そこに米国への憧憬と拒絶(「占領」であるのだからもちろん拒否感が存在する)を見るのである。

さらに戦後、米国の援助や様々なファクターが重なり高度経済発展を遂げることができた本土は沖縄人にとっては海を隔てた楽園のように感じられた。しかし、米軍による統治を約束された沖縄はその時点で本土復帰は夢のまた夢。本土への憧れと復帰できないくやしさの間で彼らのアイデンティティは引き裂かれていたのである。

しかし、その状況もアメリカのベトナム戦争開戦からがらりと変わる。戦後、平和へと向かったという自負があった沖縄人にとって自らの土地から発射された飛行機によってベトナム人が無残に殺害されているという事態に憤りを感じたのである。さらにそこに「不完全な沖縄返還」が加わり、米国(ないしはそれに対して「NO」を言えない本土)に対する不満が爆発する。「日の丸国旗」を振っていた沖縄人が今度は「反戦旗」を振ることになったのである。

ここまで沖縄の戦後1970年までの流れであった。③からは米軍による「凌辱」、つまりレイプ事件を中心に描かれる。おそらく今作の最大のポイントになる沖縄で起こった米兵による少女レイプ事件の犯人への直接インタビューのシーンである。この事件は米兵3人によって引き起こされ、主犯格とされる人物はインタビューには登場せず、遠巻きで見ていた人物がインタビューに答える。

彼は当時の状況を振り返り、悔恨の念をつづる。そのシーンは確かにリアリティがあり、胸に来るものがある。そしてその後そういった性暴力は米軍内部においても存在するというトピックに移る。つまり男性の米兵による女性の米兵への性暴力である。ここまでくると、問題の所在は米軍内部の構造的な問題にあるように思えてくる。なぜ彼らは思考停止し、そのような所業に及んだのか。それはもっとシステム的な問題なのかもしれない。

④はあまり目立った内容がないため省略するが、今作の素晴らしい点は沖縄言説の中の一方面のみを取り上げることに終わらなかった点である。前述のように沖縄の米軍基地の是非に関しては国内だけでも白黒ついているわけではない。今作が「沖縄には基地は必要ない!米軍基地反対!」といったイデオロギーの押し付けのような内容になっていれば大した作品にはならなかったであろうが、そこをニュートラルな立場で描いているのは評価するべき点であろう。それはおそらく日本の言論人の視点ではなく、あくまで米国人ドキュメンタリー監督という視点だからこそのものなのだろう。

それに関連して米軍基地のフェンスにガムテープを張り付ける人たちとは反対にそのテープをはがす日本人の方のインタビューが挿入される。彼らは米軍の人との対話の中で問題解決の糸口を見つけようと話す。沖縄が安全保障上、米軍の力を必要としているのは明らかでそれを棚上げにして「反対」を掲げるのはお門違いだという立場だ。

おそらく沖縄言説の間で欠落しているのはこの様々な意見のコンセンサスの場が用意されていない点である。様々な意見の対立が存在するのは当然のことであるが、それを各陣営が好きなように議論しあい平行線をたどっているように思う。今の時点でひとまず重要なのはこれらがしっかりと意見を述べ合い、妥協点を見つけるコンセンサスの場を設けることだろう。